愛に恋

    読んだり・見たり・聴いたり!

平成文学(読書録)

月まで三キロ 伊与原 新

今年、二番目にいい作品だった。 6編からなる短編集だが、それぞれの登場人物が必ず難しい専門知識の持ち主で、主人公を魅了していく話になっている。 著者は東大大学院理系科の卒業で知識の豊富な作家だが、理系要素が素人にも分かるような内容で読みやすい…

かがみの孤城 辻村深月

泣いた、泣けた、最高傑作、という人が多い中、さすがに私の年では泣けない。 ファンタシーとオカルトを併せ持ったような作品で、「本屋大賞を」受賞している。 日頃、この手のものは読まないが話題作とあって、つい古本屋で手が伸びた。鏡をすり抜けると異…

月の満ち欠け 佐藤正午

多くの人が読んだ本書は輪廻転生がベースなのか、人は誰かに生まれ変わる、そして以前の恋人の前に生まれ変わった姿で現れる。 なんだかホラーともミステリーの落とし子のようで、これが直木賞なのかといぶかりながら読んだ。 中には大変な本だという人もい…

宝島 真藤順丈

最近の直木賞というのは斯くも長いものなのか。 まるで弁当箱ではないか。 沖縄の復帰が佐藤内閣時代のことだとは知っていたが、果たしてその時点で、沖縄がアメリカの占領下にあったことを知っていたかどうか覚束ない。 更に敗戦から復帰までの沖縄の歴史も…

終の住処 磯崎憲一郎

たかが121頁の本だが殆ど会話がない小説で読みにくかった。 芥川賞受賞というころで買ったのだが、どうもピンとこなかった。 結婚すれば世の中のすべてが違って見えるかといえば、やはりそんなことはなかった。互いに二十代の長く続いた恋愛に敗れたあとで付…

帰郷  浅田次郎

本来、戦争文学は自らの体験を語るのが王道だろう。 例えば大岡昇平の『レイテ戦記』などはその最たるものだ。 また、吉村昭、野間宏、大西巨人、古山高麗雄と戦前に生まれた人の体験は貴重なものだが、今やそれらの人は死滅して後を継ぐ者は戦後第一世代と…

熟れてゆく夏 藤堂志津子

初読みの作家で、表題作以下三篇の作品が収められている。 30年前の作品だが文字が浮き立つほど筆力を強く感じた。 著者は昭和24年生まれの独身だが、どの作品も性体験の豊富さを感じずにはおれない。 例えばこんな文章。 「最初のころは抱かれるたびに的確…

プラナリア  山本文緒

先日、山本文緒さんの訃報を聞き、確かうちの積読本の中に1冊あったはずだと思い、取り出してよんでみた。 表題のプラナリアとは再生能力が著しく、頭に切れ込みを入れて3等分にすれば、3つの頭を持つプラナリアに再生するという、小さなミミズみたいな生物…

JR上野駅公園口 柳美里

たった184ページの本なのに、意外と苦労させられる本書にみんな手古摺っている。 私も同感で、福島県の方言を交えた回想など非常に理解し難いものがあり、出だし、現在と過去の接点が良く解らなかった。 現上皇陛下と同じ誕生日の主人公は息子、妻に先立たれ…

パーク・ライフ 吉田修一

以前にも似たようなことを書いたが、芥川賞作品というのは、先ず、記憶に残らないことが多い。 読了後、棚に納めた段階で、早や、風化し始める。 本作が悪いというのではなく、日常的に起こったことを観察した洞察力の問題で、なるほど、このように書けば芥…

長いお別れ 中島京子

身につまされるね。 私は両親とは幼い頃に別れたので、認知症の親の面倒を見るということはないが、友人などにはこの問題に直面、または直面していたという人を何人も知っている。 「あんなに頭の良かった母がなんで」と嘆いていた声が忘れられない。 妻と三…

スクラップ・アンド・ビルド 羽田圭介 第153回芥川賞受賞

祖父の介護と言いつつ、孫の取る態度は徐々に生きる気力を奪っていくようなもので、それを分からず祖父は孫に感謝の言葉を投げかける。 母親は実父でありながら、まるで粗大ごみのように扱う言動など、表に出ないだけで実際には世間ではよく見られる光景なの…

戦場のコックたち 深緑野分

著者は、元自衛隊員でもなく、ましてやアメリカ人でもフランス人でもない。 確かにプロの作家だが軍事に関しては素人なはずなのに、装備品は勿論、連合軍の作戦事項の緻密さを踏まえてノルマンディー上陸作戦からベルリンへ向かう道のりの困難さを描いて本当…

夫の墓には入りません 垣谷美雨

そうか、この作者は以前読んだ『定年オヤジ改造計画』と同じ人だったんだ。 今回は、まだ40代なのに脳梗塞で死んだ夫に対して、何の感情も湧いて来ないという主婦の話。 私にはそのような経験がないのでよく分からないが、愛情もなく夫婦生活を続けると或い…

むらさきのスカートの女 今村夏子 芥川賞

殆ど主人公の一人称で語られるストーリーで、いつも同じような時間に商店街を歩き買い物をし、近くの公園で同じ椅子に座る、むらさきのスカートの女。 女の日常を、まるでストーカーのように追い、いつか友達になりたいと願う主人公を通して意外な結末を迎え…

人のセックスを笑うな  山崎ナオコーラ

39歳の美術専門学校の女性教師と、その学校の生徒19歳の恋愛話だが、男子には、この年頃にありがちな年上願望みたいなものを思い出すかのような小説で、私の場合、18歳当時、5歳年上の人と付き合ってはいたが、流石に20歳上というのは考えたこともなかった。…

共喰い 田中慎弥 第146回芥川賞受賞作

一つ年上の幼馴染、千種と付き合う十七歳の遠馬は、父と、父の女の琴子と暮らしていた。セックスのときに琴子を殴る父と自分は違うと自らに言い聞かせる遠馬だったが、やがて内から沸きあがる衝動に戸惑いつつも、次第にそれを抑えきれなくなって―。川辺の田…

夜は短し歩けよ乙女 森見登美彦

これまで何作か山本周五郎賞受賞作というのを読んだが、何れも外れなしという優れもので、今回も帯に「 山本周五郎賞受賞、本屋大賞2位の傑作」と銘打ってある以上期待もあったが、ファンタジーだったんですね。 好き嫌いの別れるところ、アニメが好きな人に…

おらおらでひとりいぐも 若竹千佐子

第158回芥川賞受賞作品、さて、何が出るかな何が出るかなと読み進めたが、はて、何を言っているのか・・・? 全てが東北弁で語られているので読むのも一苦労だが、理解するのも大変。 多くの人が手古摺っているような感想を寄せているが、これは方言ばかりで…

世界の果て 中村文則

どれもこれも暗い短編集だった。 あとがきに、 「世の中に明るく朗らかな小説だけしかなくなったら、それは絶望に似ているのではないかと個人的には思っている」 とあるが、作品に関しては賛否両論、私としては肌合いが良くない。 はっきり言えば、よく分か…

黄砂の籠城 上・下巻 松岡圭祐

チャールトン・ヘストン主演の映画『北京の55日』は1963年制作とあるが、私がこれを見たのは、はて、いつ頃だったか。 40年程前だったような気がするが。 まだ伊丹十三の俳優時代で、映画では柴五郎中佐を演じていた。 柴五郎中佐に関しては村上兵衛の『守城…

コーヒーが冷めないうちに 川口俊和

自慢じゃないが読書生活を初めてこの方、涙を堪えることが出来なかった本は、たったの三作品しかない。 敢えて書名は出さないが、先日、最近よく見かけるこの本の帯に目が留まり、 ー4回泣けます☕ とあったので、私の人生で、たったの3回だった泣けたが、何…

極楽カンパニー 原宏一

暇を持て余し社会との接点を失いつつあった二人の定年退職者が、図書館で出会い意気投合、架空の会社、つまり会社ごっこを始めるというストーリー。 物と金が動かない以外は普通の会社と何ら変わりのないごっこ会社。 競馬の予想でも馬券を買うのと買わない…

永遠の0 百田尚樹

児玉清さん大絶賛の書評でしたね。 物語は主人公たる姉弟の祖父宮部久蔵の人物像を追って戦友たちを尋ね歩くことに始まる。 姉弟の個々の心情を交えつつ、太平洋戦争の実情、兵の命を軽んじ、作戦失敗の責任を取らないエリート将校たちの夜郎自大さを鋭く暴…

センセイの鞄 川上弘美

谷崎潤一郎賞受賞の話題作。 主人公ツキコさんが行きつけの居酒屋で、30歳年上の高校時代の恩師、古文の先生(センセイ)に再会。 そのセンセイがツキコさんに、 「ツキコさん、デートをいたしましょう」 といっても不倫ものではない。 歳の隔たりも何のその…

億男 川村元気

映画化決定、56万部突破! 現在は確か70万部突破ぐらいではないかと思う。 で、近くの古書店で売っていたので読んでみたが・・・。 弟の借金を肩代わりした為に、家族と離れて暮らす図書館司書の一男。 宝くじで3億円が当たり、15年前に別れたきりになってい…

下町ロケット 池井戸潤

正直に言えば、あまり興味のない本だった。 長らく積読状態では可哀そうだと思い、読んでみたというのが感想だが、しかしこれが滅法面白い。 あまりエンターテインメント系は読まないのだが、いつしか感情移入させられる本で、いや・・・確かに面白い。 少し…

星々の舟 村山由佳

第129回(平成15年度上半期) 直木賞受賞 。 誰だったか、辻の角に一日座っていれば、何かしら物語が浮かぶ、というような大正時代の作家がいたと思うが、要求される観察力と、心理を掘り下げる洞察力は文学では大事なことかと思うが著者は、 「何のために」…

何者 朝井リョウ

いきなり余計な話だが、現代人が明治の小説をなかなか読みこなせないように、如何に明治の文豪と雖も若者言葉を使った平成の小説を完全に理解できるだろうか。 パソコンやスマホが登場する以上、やはり難しいと見るべきだと思うが。 昭和生まれの私には、そ…

羊と鋼の森 森下奈都

誰だったか忘れたが以前、ある女性作家がテレビでこんなことを言っていた。 「今の時代、作家は直木賞か本屋大賞を受賞しないと食べていけないのよ」 更に、 「書くことだけで食べている作家は30人ぐらいではないか」という話を聞いたのですが、かなりリアル…