愛に恋

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同志少女よ、敵を撃て 逢坂冬馬

映画『スターリングラード』を観ると、最初に新兵に対する上官の訓示がある。武器弾薬の枯渇から新兵に渡される小銃がなく、上官は「死んだ者の銃を取って戦え」という無理な支持を出す。そして列車は地獄の戦線スターリングラードに到着すると、上官に怒鳴られながら新兵たちは必至で死んだ同僚の銃を取りが、むしゃらに戦うが多くの者が次々に斃れて行く。ラストは狙撃兵となった主人公がドイツの狙撃兵と過剰な忍耐を強いられながら敵と命のやり取りをすることになる。第二次大戦中、女性兵士の存在が確認されているのはソヴィエトしかない。100万人近くもの女性兵士が、深い愛国心と、敵に復讐したいという抑えがたい欲望で前線に向かわせた要因だった。

 

その中に約2000人の女性が狙撃兵として厳しい訓練を重ねドイツ兵に立ち向かった。本書はそれらの実話に基いたフィクションだが、スターリングラードの大攻防戦というのは、人類史上最大の激戦地だったといっても過言ではない。ドイツ軍は60万人以上を投入するという戦力集中で、市街地の九割以上を失い人的被害も枯渇に近い状態で戦う女性兵士たち。侵略によってレイプされるロシア人女性。復讐によってレイプされたドイツ人女性。それは現代の強姦と違って凄まじいものだっただろう。占領下にある人たちの哀しみと怒り。スラブ人を絶滅させるために遣って来たドイツ軍。その復讐のために襲い掛かるロシア兵。まあ、なんとも深い哀しみをもって読むしかない。当時を生きた人の舐めた辛酸は譬えうるべき言葉がない。