愛に恋

    読んだり・見たり・聴いたり!

朝井まかて

類 朝井まかて

有名作家の没後に娘が「父の想い出」として本を上梓することは多い。それらのものを読むことは意外に愉しい。例えば何度も書いてきたように向田邦子と阿川佐和子の随筆は殊のほか面白い。何が面白いのか、共に父を怖がっている点で、本人には失礼だが怒られ…

残り者  朝井まかて

当初は江戸城引き渡しにあたっての政局と軍事の話かと思ったら、さに非ず。将軍と御台所の衣装係である天璋院付き「御服之間」のりつ。天璋院の愛猫を探している「御膳所」で働く御仲居のお蛸。御台所の居室の掃除や雑用を受け持つ「御三之間」のちか。「御…

落陽 朝井まかて

予備知識のないまま読んだが、当初は神宮造営がどのように行われたかノンフィクションタッチで書かれているものだとばかり思っていたが、さに非ず。小説そのもので、明治天皇崩御直後、渋沢栄一ら東京の政財界人は御霊を祀る神宮造営を計画、その動きは巨大…

落花狼藉  朝井まかて

落花の狼藉とは処女を奪われることだと何かで読んだが、本書のタイトルではそういう意味ではない。私は知らなかったが、吉原遊郭は浅草寺裏の日本堤にあったらしい。事の起こりは元誓願寺前で遊女屋を営む庄司甚右衛門が、娼家の主人を代表として、幕府に陳…

最悪の将軍 朝井まかて

タイトルから想像して当然「生類憐れみの令」を悪法と捉え、それに拠って如何に町民が苦しめられ疲弊したか、犬公方様は人より、お犬様の方が大事、さぞ評判の悪い将軍綱吉の話かと思ったが、さに非ず、著者の歴史観は綱吉を名君のように扱い書かれている。 …

先生のお庭番 朝井まかて

しぼると(シーボルト)先生の園丁として仕えることになった熊吉少年の出島での日々を描いた作品で、主にシーボルト事件までが書かれている。 園丁として薬草作りに励み、殊の外真面目でシーボルトに気いられ、「草花を母国へ運びたいという」シーボルトの意…

ぬけまいる 朝井まかて

なるほど、女性三人の東海道中膝栗毛というわけで、「ぬけまいる」とは家人に何も告げず、家出同然でお伊勢参りに繰り出すということらしい。 路銀も充分ではなく、道中手形も用意せず、何とかなるだろうというあなた任せ発想から旅先での人助け、博打、恋、…

眩 朝井まかて

盲目の娘を通して描かれた『阿蘭陀西鶴』、水戸天狗党の領袖武田耕雲斎の妻で、維新後「萩の舎」を主宰した中島歌子を主題にした『恋歌』、そして今回の『眩』は葛飾北斎の娘葛飾應為を扱っているのだが、この人の作品はどれも素晴らしい。 まるで江戸時代の…

阿蘭陀西鶴 朝井まかて

「好色一代男」や「世間胸算用」などの浮世草子で知られる井原西鶴は松尾芭蕉、近松門左衛門と同時代人だったんですね。 俳諧師として、一昼夜に多数の句を吟ずる矢数俳諧を創始、2万3500句を休みなく発する興行を打ったこともあるとか。 本当ですか西鶴先生…

恋歌 朝井まかて

中島歌子の前半生にこんな経歴があるとは知らなんだ それにしても文句なしの直木賞作品だと思う。 私も絶賛します。 時代考証、武家言葉、語彙の巧みさなど、どれをとってもまたとない作品。 平穏な家庭生活だったが、夫が天狗党の乱に参加したために一転し…