愛に恋

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残り者  朝井まかて

当初は江戸城引き渡しにあたっての政局と軍事の話かと思ったら、さに非ず。将軍と御台所の衣装係である天璋院付き「御服之間」のりつ。天璋院の愛猫を探している「御膳所」で働く御仲居のお蛸。御台所の居室の掃除や雑用を受け持つ「御三之間」のちか。「御中臈」のふき。そして静寛院宮(和宮)付き「御服之間」のもみぢが、江戸城、引き渡しの前日から城内に立てこもり、なにやら悠長なことをやっているが、明日は薩長が来るかもしれないという時の、幕府の瓦解と大奥一千人の身の処し方など、今後の行く末などを思いおもいに悩み考えるような話だ。思えば十四代将軍家茂が夭逝しなければ、歴史は変わっていたかもしれない。尊王思想の強い水戸出身の慶喜と違い、家茂は紀州の出、あくまでも薩長と一戦を交えていたかも。さすればもっと面白い結果になったやも知れず、多くの女たちもそれを望んでいただろうに。幕府終焉にあたり薩摩出身の天璋院と皇族出身の静寛院宮が共に朝廷に対し、徳川宗家の存続と江戸征伐の中止、慶喜公の助命を嘆願して歴史の全面に出るあたりは、もっと細かに書いても良かったかもしれない。