愛に恋

    読んだり・見たり・聴いたり!

時代小説(読書録)

大名倒産 (下)浅田次郎

相対的に面白い設定で尚且つ読み応えのある内容だったが、個人的には全編シリアスな話でも良かったようにも思う。「新田の開拓」「産業の奨励」「節倹の徹底」など、苦労した末の返済にして欲しかった。七福神や福の神、貧乏神といった非現実な神々の出演は…

大名倒産 (上)浅田次郎

浅田次郎という人はとにかく博学だ。 まるで江戸時代の人が書いているようで、時代考証、武家言葉など小説の名手といっていい。この人は現代劇、時代劇と両刀使いで、とにかくよく調べている。 架空の藩である三万石の御領国・丹生山を継いだ四男の小四郎は…

漂砂のうたう 木内 昇

『櫛挽道守』で第9回中央公論文芸賞を受賞に続いて二冊目の本だが、この人、木内 昇と書いて(のぼる)ではなく(のぼり)で女性作家なんですよ。本作は直木賞受賞作で、維新から10年、武士という身分を失い、根津遊廓の美仙楼で客引きとなった定九郎。自分…

渦 妹背山婦女庭訓 魂結び 大島真寿美

第161回直木賞受賞作。「妹背山婦女庭訓」や「本朝廿四孝」などを生んだ人形浄瑠璃作者、近松半二の生涯を描いた比類なき名作! この人物は近松門左衛門と縁戚関係にあるわけではないが、大阪の儒学者・穂積以貫の次男として生まれた成章は、末楽しみな賢い子…

幕末まらそん侍  土橋章宏

幕末の安中藩士たちが行う「安政遠足(とおあし)」を題材にした小説で、五代藩主・板倉勝明が安中城から碓氷峠までの二十八キロの「遠足」を藩士に命じた記録が、1927年に刊行された群馬県教育会編の『群馬県史』に書いてあるらしい。勝明は開明的な人物で…

決算! 忠臣蔵 中村義洋 山本博文

私が生まれて初めてひとりで映画を観に行ったのは、まだ小学生の頃で、何と東映の『忠臣蔵』だった。出演は東映のオールキャストで長谷川一夫、市川雷蔵, 勝新太郎, 山本富士子, 京マチ子, 淡島千景, 木暮実千代, 若尾文子, 中村鴈治郎(二代目), 黒川弥太…

櫛挽道守  木内 昇

本作は中央公論文芸賞、柴田錬三郎賞、親鸞賞受賞作の大作で読むほどに唸るような作品だと思う。 私が審査員でも間違いなく一票を入れたであろう文句なしの小説ではなかろうか。 多少、時代考証や方言など難しいところもあるが、ストーリーなどどこまでも読…

義民が駆ける 藤沢周平

記録によると第11代将軍徳川家斉は特定されるだけで16人の妻妾を持ち、53人の子女(男子26人・女子27人)を儲けたが、そのうち成年まで存命したのは約半分の28人だったと言われる。本書はその徳川家斉の命により、三方国替えが筆頭老中水野忠邦によって断行…

引っ越し大名三千里 土橋章宏

どこまで史実に基いているのか知らないが、たまにはこういうコミカルにして軽妙なタッチの時代小説を読むのも息抜きとしてはいいね。生涯7度も国替をさせられた松平直矩、この引っ越しの差配を任ぜられたのが、うだつの上がらなかった片桐春之介、通称、引っ…

輪違屋糸里 (下)  浅田 次郎

下巻ではいよいよ近藤一派と芹沢一派の争いになるわけだが、どうも様子が今までとは少し違う解釈になっている。近藤と芹沢は仲違いしたとも思えず、意外に仲がいい。二人して祇園に出かけ飲んでは遊び、話し合いも親密だ。然し、会津中将に呼ばれた近藤一派…

悪玉伝  朝井まかて

この人の本を何冊か読んでいるが、現代では時代小説を書かせたらこれほど上手い作家もいないと思う。 もう名人の域だろう。 『恋歌』第150回直木三十五賞受賞。 『阿蘭陀西鶴』第31回織田作之助賞受賞。 『眩』第22回中山義秀文学賞受賞。 『福袋』第11回舟…

吉原手引草  松井 今朝子

直木賞作家の松井今朝子という人は、まあ、恐るべき時代小説家だよね。 経歴を見ると1953年、京都・祇園にある料亭の娘として生まれる、聖母学院中学高等学校卒、早稲田大学第一文学部演劇学科卒、同大学大学院文学研究科演劇学修士課程修了後、松竹株式会社…

方丈の孤月 梓澤 要

先ほど読んだ「貧乏は幸せにのはじまり」によれば、方丈とは一丈が約3メートルなので現在の4畳半に当たるらしい。 同時に寺の住持の部屋を「方丈」と呼ぶ。 京都賀茂御祖神社の神職の家の生まれながら、若くして父母を失い出世の道を閉ざされた鴨長命は、…

そろそろ旅に 松井今朝子

まあ、何と言うか時代小説は斯くありなんとでも申しましょうか、素晴らしい書き手ですね。 彼女の経歴を見るに1953年9月28日生まれで、早稲田大学大学院修士課程を修了とあるが、このぐらいの学歴がないと、こんな小説はかけないんでしょうか。 私が感心した…

鶴屋南北の恋 領家高子

鶴屋南北、彼の作品ほど私の少年期を苦しめたものはない。 父の言う怪談が何のことか分からず「階段」がなぜ怖いのかと薦めらるまま見たのが奈落の一丁目。 真夏の夜の「四谷怪談」、これほど恐ろしい映画もなかった。 天下の二枚目、長谷川一夫演じる田宮伊…

四十八人目の男 大佛次郎

晩年の父を偲ばせるものにNHKの大河ドラマがある。 日頃、戦争体験の話は元より歴史を語らせたら止まらなかった父だったが昭和39年の大河ドラマが『赤穂浪士』とあって、我が意を得たりとばかり日曜日を楽しみにするようになった。 しかし、古ぼけたアパート…

蜩ノ記 葉室麟

第146回直木賞受賞作、なるほど、清々しい感動小説でした。 武家言葉など身に染み入るようで、某(それがし)感服仕った次第であります、と言いたくなる見事な出来栄え。 拙者にとっては久々の時代小説。 以前、 藤沢周平原作の『蝉しぐれ』という映画を観た…

水戸黄門 天下の副編集長 月村了衛

古書探訪とは言い換えれば古本屋を定期的にパトロールするようなものだ。 何か、いい獲物はないかな。 とびっきりの獲物などはそう易々とは見つからないが、今日はこのぐらいで我慢しておくかというような代物は時に引っ掛かる。 勿論、手ぶらでの御帰還もあ…

あい 永遠に在り 高田郁

司馬遼太郎作品に『胡蝶の夢』という奥御医師・松本良順を描いた作品がある。 確か単行本で全5巻だったと思うが、登場人物の一人に関 寛斎なる蘭方医がいた。 がしかし、読後、何十年も経っているので内容は殆ど忘れてしまい、関 寛斎のことはすっかり失念い…

風草の道 橋廻り同心・平七郎控 藤原緋沙子

私にとって歴史小説作家と言えば司馬遼太郎、吉村昭、海音寺潮五郎で、時代小説作家は山本周五郎、池波正太郎、藤沢周平というところか。 テレビ、映画を問わず時代劇は昔から好きで『必殺仕事人』『大岡越前』『遠山の金さん』『鬼平犯科帳』などをよく見て…