愛に恋

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義民が駆ける 藤沢周平

記録によると第11代将軍徳川家斉は特定されるだけで16人の妻妾を持ち、53人の子女(男子26人・女子27人)を儲けたが、そのうち成年まで存命したのは約半分の28人だったと言われる。本書はその徳川家斉の命により、三方国替えが筆頭老中水野忠邦によって断行されたことに端を発する。武州川越藩主松平斉典(なりつね)を羽州庄内藩へ、羽州庄内藩主酒井忠器(ただかた)を長岡藩へ、長岡藩が川越藩へと国替えせよという幕命だ。庄内藩としては納得がいかない。なんら落ち度がないのに長岡藩への転封となれば石高が半分以下に減り、家臣を養っていけない。何かがおかしい、どのような理由で転封になるのか江戸詰めの家臣などが探索にあたる。問題は徳川家斉の二十四番目の男子、斉省(なりさだ)が川越藩松平家の養子に入っているだけで、十五万石の川越藩から二十万石を超える裕福な庄内藩へ移封させたいだけではないかという疑念から、こんな幕命では世間が許さないと立ち上がる庄内武士と百姓の強訴を招くドラマで、これは実在の事件を扱ったものだ。