愛に恋

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死刑でいいです―孤立が生んだ二つの殺人  池谷 孝司

日本ではよく重大犯罪を犯したときに弁護側は必ずといっていいほど、「被告は犯行当時、心神耗弱状態だったという」思うに、してみると戦時中における兵士の犯罪はみな心神耗弱状態だったからといえる。2005年、大阪で若い姉妹が自室で滅多刺しにされ殺害されれた事件のことはよく記憶している。記者会見に臨んだ被害者の父親と弟は「犯人が精神障害なんて私らには関係ありませんよ」と言っていた。その気持ちはよく解かる。帰宅したと同時に犯人に襲われ、顔と腹を中心に滅多刺しにされた姉妹にとっては、どれだけ怖く痛かったことかと考えれば、犯人精神状態などどうでもいい。早く死刑にして欲しいだけだ。犯人、山地悠紀夫はその5年前にも実母を殺し、少年院で矯正教育を受けていた。よく解からないのがこの手の犯罪のとき、検察側と弁護側がそれぞれ精神鑑定を求めた結果、専門家たる、精神科医臨床心理士の見解が分かれることがある。これはどういうことなんだろうか。本書には沢山の病名がでてくる。自閉症、広汎性発達障害アスペルガー症候群発達障害。16歳で母親をバットで滅多打ちにして殺し、少年院で診察した人に「また人を殺す可能性があるのかな」と訊かれ「ありますね」と答えている。姉妹刺殺事件の主任弁護士は、「社会に出る時期は、心理状態や発達の段階をもっと詳しく検討した上で慎重に判断するべきだった」と残念がる。犯人の精神状態が如何なものであろうと、自分の娘二人が、妻や子が滅多刺しにさっれ殺されたなら、アナタは「ああ、いいですよ無期懲役で」と言えるだろうか。私は言えないではなく言わない。