この人の本を何冊か読んでいるが、現代では時代小説を書かせたらこれほど上手い作家もいないと思う。
もう名人の域だろう。
『恋歌』第150回直木三十五賞受賞。
『悪玉伝』第22回司馬遼太郎賞受賞。
『類』第34回柴田錬三郎賞受賞、第71回芸術選奨受賞など、名だたる賞を総なめだが、本作においても、その見事な筋書きと、時代考証の素晴らしさと博学に於いて満点だろう。
大坂の炭問屋の主・木津屋吉兵衛は風雅を愛する伊達男。家業を顧みず放蕩の限りを尽くしていたところ、兄の訃報が舞い込む。
生家の大店・辰巳屋に駆けつけた吉兵衛は、店を我が物にしようと企む大番頭の策略で相続争いに巻き込まれ、次第に泥沼化する訴訟は徳川吉宗や大岡越前守の耳に入る事態にまで発展。
吉兵衛は大坂商人の意地をかけた大勝負に挑む歴史エンタメとして抜群の面白さだ。