愛に恋

    読んだり・見たり・聴いたり!

西條八十  筒井清忠

昔、『人間の証明』でジョー・山中の歌がとても良かったが、西條八十の『ぼくの帽子』を始めて知ったときの感動が忘れられない。母さん、僕のあの帽子、どうしたんでせうね?ええ、夏、碓氷から霧積へゆくみちで、渓底へ落としたあの麦稈帽子ですよ。以来、萩原朔太郎に次いで好きな詩人になった。今まで何冊か八十についての本を読んできたが、本書が一番の評伝といえるだろう。第57回読売文学賞、第14回山本七平賞特別賞、第29回日本児童文学学会特別賞受賞などを受賞している。芥川などは「大正八年度の文芸界」で次のように書いている。「予は本年度に出版された詩集中、最も特色あるものとして西條八十氏の『砂金』千家元麿氏の『虹』室生犀星氏の『第二愛の詩集』を挙げている。その後、白秋、八十、雨情の「三巨星時代」に入るわけだが、確かに甲乙つけがたい巨星だ。しかし退嬰的な『船頭小唄』が圧倒的流行で、大震災が起きたと幸田露伴が新聞に書いた、私は好きな曲なんだけどね。その真逆として、これも爆発的にヒットした戦前の『東京行進曲』「昔恋しい銀座の柳」って誰でも一度は聴いたことがあると思う。兎にも角にも戦前戦後と歌謡界を席巻した詩人としての八十の才能には恐れ入る。『蘇州夜曲』『誰が故郷を想わぜる』『青い山脈』『王将』など無数のヒット曲を作った。昭和35年6月1日、妻晴子が亡くなり、翌年千葉県に墓を作り次のような献詩が刻まれている。われらふたり、たのしくここに眠る、離ればなれに生まれ、めぐりあい、みじかき時を愛に生きしふたり、悲しく別れたれど、また、ここに、こころとなりて、とこしえに寄り添い眠る。なんだか哀しいね。