愛に恋

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阿部公房と私 山口果林

 
 
近年、ノーベル文学賞候補として井上靖と阿部公房が候補に挙がっていたことが、ニュースで採り上げられていたが、以前から思っていた疑問、井上靖さんが受賞しなかった理由が分かり少し溜飲が下がる思いだった。
ノーベル文学賞は存命が条件。
 
しかし、阿部公房という作家は昔『砂の女』を読んで以来、どうも肌が合わず、以後、一冊も読んだことがなかっただけに少し驚いた。
後にノーベル文学賞を受賞した大江健三郎は、阿部公房、大岡昇平井伏鱒二ががもっと長生きしてたら、彼らが受賞していたはずだと言っているが、肝心の阿部公房は井上靖を評価せず、司馬遼太郎、石川順、萩原延壽などと馬が合ったようで、三島由紀夫とも才能を認め合った仲だったらしい。
 
故に長い間、興味を払ってこなかった阿部公房と女優山口果林の生々しい関係の一部始終を、当の山口果林本人が書いたというので更に驚いたし、二人の関係に付いては全く知らなかった。
本書には、阿部公房が撮ったと思われる果林の全裸写真も掲載されていて、山口果林という女優の見方も変わってしまった。、
 
二人は23歳程、歳が違うそうだが巡り合うべくして巡り合ったのか、必然だったのか、不倫関係を長年に亘って続け、夫人の知るところとなり妻とは別居。
だが、生前からノーベル賞受賞の可能性があることは分かっていて、受賞するまでは離婚しないでくれと関係者から言われていたと書かれている。
 
しかし山口果林の大胆さ、赤裸々に性関係にも触れ、相性もよく避妊はオギノ式とある面、天晴れな告白本だ。
相性はセックスに限らず、二人はピンク・フロイドの大ファンで、何でも世界に3台しかないピンク・フロイド所有のシンセサイザーも購入したらしい。
とにかく好奇心が強く、読んでくうちに魅力的な作家だったことが伺い知れる。
それに付き合う果林も舞台女優を目指しただけあって、かなりの読書家、レニ・リーフェンシュタールモニカ・ヴィッティ などの名前も出てくる。
二人の逢瀬は東京の山口果林のマンションか箱根の阿部公房の別荘。
 
「さよならの別れの言葉をいつも持っている関係でいようね」
 
と、言い合っているが、なかなか難しいことだ。
阿部公房は決して美男子ではないが、好奇心と高尚な趣味を目の当たりにすれば、好意を持つのも自然なことなのかも知れない。
文学、音楽、写真、車と何でも凝り性で、謂わば私の好きなタイプでもある。
彼は角田房子の『閔妃暗殺』を果林に推薦しているが、日本史に悪名高い三浦梧楼と岡本柳之助が影で暗躍した暗殺事件で確かにこの本は面白い。
 
不倫はさておき、ここまで相性がいいと別れ難いのも理解出来る。
勿論、そこには阿部公房夫人の深い苦悩もあったことだろう。
しかし前立腺癌の発覚と睾丸摘出。
夫人、果林、両者にとっての驚きと絶望、如何許りであったか。
癌は第四期に入っていて頭蓋骨、大腿骨への転移、別れたほうがいいと話し合い「宦官」について調べあったと書いてあるが失礼ながら面白い話だ。
 
その後、果林の実母も癌を発症し、ひじきが効くと聞いては一生懸命ひじきを作り、ハードなスケジュールの中、自らの体調も悪くしていく。
そして平成5年1月20日早朝、果林のマンションで倒れ、二日後に死亡。
 
スポーツ紙など全紙を挙げて事実をすっぱ抜かれ果林は身を隠すが、安部夫人も程なく死に2月4日には母も死去。
全てのことは日にち薬とは言うものの、果たしてこのような時の精神状態はどのようなものか?
 
不倫の善し悪しよりも、人を愛する真剣な気持ちに迷いなく突っ走る姿。
今、彼女は当時を振り返ってどう考えているのか知らないが、このドラマチックな設定に私は答える術が無い。
不毛の論争になりがちな不倫問題に与したくないが、愛の尺度を計るのはかなり難しい。
勿論、夫人の言い分もある。
正妻としての嫉妬、これまた当然。
しかしこういうことを言った人もいる。
 
「不倫こそ最高の恋愛である」
 
珈琲の豆の樹、小田原駅近くにある店で、二人が待ち合わせに使ってた所です。
 

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