愛に恋

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吉原手引草  松井 今朝子

直木賞作家の松井今朝子という人は、まあ、恐るべき時代小説家だよね。

経歴を見ると1953年、京都・祇園にある料亭の娘として生まれる、聖母学院中学高等学校卒、早稲田大学第一文学部演劇学科卒、同大学大学院文学研究科演劇学修士課程修了後、松竹株式会社に入社、歌舞伎の企画・制作に携わる。松竹を退職後フリーとなり、武智鉄二に師事して、歌舞伎の脚色・演出・評論などを手がけるようになる。

とあるが、本を読んでいると、まるで江戸の人かと思わせるほどの抜群な時代考証と江戸言葉。

これでは選考人も適うまい。

本書は廓からいなくなった葛城花魁を、一人の聞き手が葛城と関係のあった𠮷原で働く人17人に訊いて回る話だが、これがまあ落語を読んでいるような塩梅で、訊かれる方が聞き手の言葉まで取って話している点、まるで寅さんのアリアのようで、実に巧妙でお見事。

つまり、訊き手の御仁は全く口を挟まず、参考人のような町民が全て1人で語る話が17話。

果たして花魁は何処へ消えたのかと。