愛に恋

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類 朝井まかて

有名作家の没後に娘が「父の想い出」として本を上梓することは多い。それらのものを読むことは意外に愉しい。例えば何度も書いてきたように向田邦子阿川佐和子の随筆は殊のほか面白い。何が面白いのか、共に父を怖がっている点で、本人には失礼だが怒られている場面などが想像できるほどに楽しい。本書の「類」とは森鴎外の次男のことで、鴎外には4人の子供がおり、上から長男於菟(おと)、以下、腹違いの3人の子供、長女茉莉、次女杏奴(あんぬ)、そして次男類となる。その4人が全員、文筆の才能があったのか、みな父のことだけを書いて本を出している。内容たるや、あまりにも偉大な父であったがために、募る思いは暖かい思い出ばかり。怒られた記憶はあまりなく、もっぱら怒り役は母の志げで類は怒られてばかり。その志げは姑と馬が合わず虐げられ、なさぬ仲の義理の長男ともそりが合わない。類にも4人の子供ができ一家を支えていく大黒柱になったが、あまりにも頼りない夫であり父であったというのが本書の話。画業、本屋、作家と苦労しながら取り組んでみるが何れもモノにならず、商売も失敗。類の妻美穂は真剣さが足りないからダメなんだと何度も責めるが、結局は美穂が亡くなるまで目が出なかった。妻に先立たれ何度もお見合いをして再婚するが、なぜか類の死までは書かれていない。