愛に恋

    読んだり・見たり・聴いたり!

平成文学(読書録)

戦場のコックたち 深緑野分

著者は、元自衛隊員でもなく、ましてやアメリカ人でもフランス人でもない。 確かにプロの作家だが軍事に関しては素人なはずなのに、装備品は勿論、連合軍の作戦事項の緻密さを踏まえてノルマンディー上陸作戦からベルリンへ向かう道のりの困難さを描いて本当…

夫の墓には入りません 垣谷美雨

そうか、この作者は以前読んだ『定年オヤジ改造計画』と同じ人だったんだ。 今回は、まだ40代なのに脳梗塞で死んだ夫に対して、何の感情も湧いて来ないという主婦の話。 私にはそのような経験がないのでよく分からないが、愛情もなく夫婦生活を続けると或い…

むらさきのスカートの女 今村夏子 芥川賞

殆ど主人公の一人称で語られるストーリーで、いつも同じような時間に商店街を歩き買い物をし、近くの公園で同じ椅子に座る、むらさきのスカートの女。 女の日常を、まるでストーカーのように追い、いつか友達になりたいと願う主人公を通して意外な結末を迎え…

人のセックスを笑うな  山崎ナオコーラ

39歳の美術専門学校の女性教師と、その学校の生徒19歳の恋愛話だが、男子には、この年頃にありがちな年上願望みたいなものを思い出すかのような小説で、私の場合、18歳当時、5歳年上の人と付き合ってはいたが、流石に20歳上というのは考えたこともなかった。…

共喰い 田中慎弥 第146回芥川賞受賞作

一つ年上の幼馴染、千種と付き合う十七歳の遠馬は、父と、父の女の琴子と暮らしていた。セックスのときに琴子を殴る父と自分は違うと自らに言い聞かせる遠馬だったが、やがて内から沸きあがる衝動に戸惑いつつも、次第にそれを抑えきれなくなって―。川辺の田…

夜は短し歩けよ乙女 森見登美彦

これまで何作か山本周五郎賞受賞作というのを読んだが、何れも外れなしという優れもので、今回も帯に「 山本周五郎賞受賞、本屋大賞2位の傑作」と銘打ってある以上期待もあったが、ファンタジーだったんですね。 好き嫌いの別れるところ、アニメが好きな人に…

おらおらでひとりいぐも 若竹千佐子

第158回芥川賞受賞作品、さて、何が出るかな何が出るかなと読み進めたが、はて、何を言っているのか・・・? 全てが東北弁で語られているので読むのも一苦労だが、理解するのも大変。 多くの人が手古摺っているような感想を寄せているが、これは方言ばかりで…

世界の果て 中村文則

どれもこれも暗い短編集だった。 あとがきに、 「世の中に明るく朗らかな小説だけしかなくなったら、それは絶望に似ているのではないかと個人的には思っている」 とあるが、作品に関しては賛否両論、私としては肌合いが良くない。 はっきり言えば、よく分か…

黄砂の籠城 上・下巻 松岡圭祐

チャールトン・ヘストン主演の映画『北京の55日』は1963年制作とあるが、私がこれを見たのは、はて、いつ頃だったか。 40年程前だったような気がするが。 まだ伊丹十三の俳優時代で、映画では柴五郎中佐を演じていた。 柴五郎中佐に関しては村上兵衛の『守城…

コーヒーが冷めないうちに 川口俊和

自慢じゃないが読書生活を初めてこの方、涙を堪えることが出来なかった本は、たったの三作品しかない。 敢えて書名は出さないが、先日、最近よく見かけるこの本の帯に目が留まり、 ー4回泣けます☕ とあったので、私の人生で、たったの3回だった泣けたが、何…

極楽カンパニー 原宏一

暇を持て余し社会との接点を失いつつあった二人の定年退職者が、図書館で出会い意気投合、架空の会社、つまり会社ごっこを始めるというストーリー。 物と金が動かない以外は普通の会社と何ら変わりのないごっこ会社。 競馬の予想でも馬券を買うのと買わない…

永遠の0 百田尚樹

児玉清さん大絶賛の書評でしたね。 物語は主人公たる姉弟の祖父宮部久蔵の人物像を追って戦友たちを尋ね歩くことに始まる。 姉弟の個々の心情を交えつつ、太平洋戦争の実情、兵の命を軽んじ、作戦失敗の責任を取らないエリート将校たちの夜郎自大さを鋭く暴…

センセイの鞄 川上弘美

谷崎潤一郎賞受賞の話題作。 主人公ツキコさんが行きつけの居酒屋で、30歳年上の高校時代の恩師、古文の先生(センセイ)に再会。 そのセンセイがツキコさんに、 「ツキコさん、デートをいたしましょう」 といっても不倫ものではない。 歳の隔たりも何のその…

億男 川村元気

映画化決定、56万部突破! 現在は確か70万部突破ぐらいではないかと思う。 で、近くの古書店で売っていたので読んでみたが・・・。 弟の借金を肩代わりした為に、家族と離れて暮らす図書館司書の一男。 宝くじで3億円が当たり、15年前に別れたきりになってい…

下町ロケット 池井戸潤

正直に言えば、あまり興味のない本だった。 長らく積読状態では可哀そうだと思い、読んでみたというのが感想だが、しかしこれが滅法面白い。 あまりエンターテインメント系は読まないのだが、いつしか感情移入させられる本で、いや・・・確かに面白い。 少し…

星々の舟 村山由佳

第129回(平成15年度上半期) 直木賞受賞 。 誰だったか、辻の角に一日座っていれば、何かしら物語が浮かぶ、というような大正時代の作家がいたと思うが、要求される観察力と、心理を掘り下げる洞察力は文学では大事なことかと思うが著者は、 「何のために」…

何者 朝井リョウ

いきなり余計な話だが、現代人が明治の小説をなかなか読みこなせないように、如何に明治の文豪と雖も若者言葉を使った平成の小説を完全に理解できるだろうか。 パソコンやスマホが登場する以上、やはり難しいと見るべきだと思うが。 昭和生まれの私には、そ…

羊と鋼の森 森下奈都

誰だったか忘れたが以前、ある女性作家がテレビでこんなことを言っていた。 「今の時代、作家は直木賞か本屋大賞を受賞しないと食べていけないのよ」 更に、 「書くことだけで食べている作家は30人ぐらいではないか」という話を聞いたのですが、かなりリアル…

東京バンドワゴン 小路幸也

『東京バンドワゴン』、何のことかと思いきや、古書店の名前だった。 親子4世代が住む昭和のホームドラマのような小説で当主の堀田貫一は御年79歳。 明治から続く3代目の古本屋のおやじ。 それにしても明治の御代に『東京バンドワゴン』という店名はハイカラ…

青春デンデケデケデケ 芦原すなお

第105回直木賞受賞作、ロックに魅了された60年代の高校生らを描く青春小説で、時代の空気感はその当時を生きた者としてよく分かるが、やはりこの手の小説を読むには少し年を取り過ぎたか感動がなかった。 解説にはこんなことが書かれている。 あの1960年代は…

北緯14度 絲山秋子

未読だが芥川賞作家の絲山秋子に『北緯14度』なる作品がある。 なんでも子供の頃から大ファンだった打楽器奏者のドゥドゥ・ンジェア・ローズの故郷が見たいということで旅立ち、首都ダカールのホテルに滞在しているうちに友達が増え、ある日「俺の第三夫人に…

木暮荘物語  三浦しをん

『舟を編む』という辞書編纂に情熱を傾ける青年の映画を観たが、三浦しをんという作家はまた馬鹿に堅苦しい本を書く人かと思っていたら豈図らんや。 この作品は7編からなる短編連作小説だがいずれも通底するのはズバリ、セックス! 木暮荘という古い木造ア…

仏果を得ず 三浦しおん

「『たゞ今母の疑ひも、我が悪名も晴れたれば、これを冥途の思ひ出とし、跡より追っ付き舅殿、死出三途を伴はん』と突っ込む刀引き廻せば」 『仮名手本忠臣蔵』「勘平腹切の段」の場面。 主役は早野勘平、萱野勘平のモデルですね。 高校卒業と共に浄瑠璃、義…

まほろ駅前多田便利軒 三浦しをん

三浦しをんの直木賞受賞作品。 なかなか面白い作品だが特別感想文を書くほどではないような気がする。 便利屋を営む中年男に舞い込む仕事を巡ってのトラブルがメイン。 寧ろ、この手の作品は映画で見た方が面白いかも知れない。 文芸作品というのは、先に原…

ダブル・ファンタジー 村山由佳

この人、何年か前に一度だけテレビで見たことがある。 失礼ながら小説家にしては可愛い人だという印象を持ったが、一度も作品を読んだことがない。 恋愛小説の名手らしいが、あまり愛だ恋だという本は好きな方ではないので、これまで遠慮してきたが、一枚の…

定年オヤジ改造計画 垣谷美雨

唐突だが、夫源病という言葉を聞いたことがあるだろうか? 一般的にあまり聞かない単語たが調べてみると確かにある! 読んで字の如しというか、夫が原因の病気らしい。 定年後の夫を粗大ごみと呼び、熟年離婚が叫ばれて久しいが夫源病なる単語に興味を持ち、…

死んでいない者 滝口悠生

毎度のことながらどうも芥川賞受賞作とは相性が合わない。 古くは尾崎一雄の『暢気眼鏡』、庄司薫『赤頭巾ちゃん気をつけて』、または村上龍『限りなく透明に近いブルー』、池田満寿夫『エーゲ海に捧ぐ』等々。 ただ、松本清張の『或る「小倉日記」伝』はい…

ホテルローヤル 桜木紫乃

第149回直木賞受賞作。 タイトルから想像するに『ホテルローヤル』に来る客のそれぞれが抱える胸の裡をドラマ仕立てで紡ぐ連作短編集ようなものかと思っていたが少し違った。 ホテルローヤルで起こる七つの物語だが時系列的に過去に遡るように展開されてい…

乳と卵 川上未映子 

この作品を芥川賞に持ってくるところが選考委員会の御目が高いところなのか私の御目が低いところなのか悩ましい。 改行なしで読点によって区切られ延々と続く文体は情景描写なり思考の連続なりで会話というのが殆どない。 豊胸手術を受けることに悩み続ける…

想像ラジオ いとうせいこう

余談だが、以前、CSテレビで桑田佳祐といとうせいこうの対談を見たことがある。 その時の話しによると、何でもいとうせいこうは極めて初期の段階からサザン応援団の会員らしい。 まあそれはともかくこの小説。 難解とまでは言わないが冒頭からやや解りにくい…