愛に恋

    読んだり・見たり・聴いたり!

ポトスライムの舟  津村記久子

芥川賞選考委員会はまず文学的な技巧の高さを評価したみたいだ、併し、読み始めて何だかつまらないなと思っていたら、徐々にこれはなかなか書けない上手さだと気づかされる。29歳、社会人8年目、手取り年収163万円。工場勤務のナガセは、食い扶持のために、「時間を金で売る」虚しさをやり過ごす日々。ある日、自分の年収と世界一周旅行の費用が同じ163万円で、1年分の勤務時間を「世界一周という行為にも換金できる」と気付くが。解説には主人公の内面の心情を吐露しているように見える部分はすべて、実は外面から見た客観的な描写なのであると書かれているが、そこはなかなか難しい解釈だ。会話は極端に少なく薄い割には時間がかかる苦手なタイプの作品で、何かが起きるわけでもなく、ある面、何処にでもあるような日常を切り取った話を、繊細な感情で日記に綴ったものを纏めたような感じだ。