愛に恋

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「ムーンライト・セレナーデ」 宗坊はいますか、宗坊はいますか

大杉栄の妹あやめは、薄倖の人であった。アメリカのオレゴン州ポートランドで農業を営む橘宗三郎と結婚して宗一を生んだが、胸を病み、そのこともあってか夫婦仲が冷たくなったため、養生かたがた宗一と共に帰国し、静岡の姉婿、柴田勝蔵の世話で静岡病院に入院していた。宗一は、鶴見の大杉勇が引き取っていたが、震災でその家が倒壊したことを知った栄と野枝が迎えにきて、東京に連れ帰る途中を甘粕に拉致されて、二人の子供と間違えられて虐殺されてしまった。時に宗一は六歳で、母あやめの慟哭は悲痛であった。その時のことを友人が書いている。「宗坊はいますか、宗坊はいますか」と叫ばれました。僕たちがそれにどう答えらることが出来ませう。女たちはすぐ「わぁ」と声をあげました。それを聞いてあなたは「じゃあ、あれは真当なんですか・・・真当なんですね・・・宗・・・」と言いさして軒先へ崩折れてしまはれた。友人は、腸をかきむしる様な貴女の泣き声を聞きながら、ガリガリと歯を噛んでいました。「ムーンライト・セレナーデ」のお時間です。宗一は六歳で私の父より一つ年下でした。まさか憲兵隊に殺されるとは思ってもみなかったでしょう。昔からこの事件に興味を持った私は、大杉の立場から、また、甘粕の立場からと何冊も読んでみましたが、どうも甘粕らが下士官三人で殺したというのは違うようだ。検視結果がそれを裏付けている。おやすみなさい、また明日。