著者は、元自衛隊員でもなく、ましてやアメリカ人でもフランス人でもない。
確かにプロの作家だが軍事に関しては素人なはずなのに、装備品は勿論、連合軍の作戦事項の緻密さを踏まえてノルマンディー上陸作戦からベルリンへ向かう道のりの困難さを描いて本当に、これが日本人作家かと思えるほど素晴らしい。
特に私が感心したのは兵士の心理描写の著わしかたで、ここに特筆しておきたい。
野や家々、生き物たちを焼き払う砲火は恐ろしくも壮麗で、ソドムとゴモラを焼いた神の御業が、目の前で再現されているような錯覚に陥った。後にどれほど惨い事態を率いようと、戦火は身震いするほど美しい。たとえこのまま死んでも、気持ちよく逝けるのではとさえ思う。興奮はまがいものだとわかっている。しかし今や僕らの大勢が、すでに、あの譬えようもない恐怖と快感と疲労の中毒になっていた。躊躇いも損失のつらさも忘れられる、極度の緊張感が恋しかった。
これは素晴らしい分析だろう、まるで体験したが如くだ。
大戦中の映像を沢山見たのだろうか。
ベトナム帰還兵の多くが自殺したというドキュメンタリーを見たことがあるが、即ち以下のようなことか。
さて、どうやって生きる?
これだけ巨大な動乱が起きた後、世界はどこへ転がっていくのか?
日々の平凡な暮らしに戻っていけるのだろうか?
憎しみの渦も、飢えに苦しむ顔も、友人の死も見て、僕ら自身の手は血で汚れ、殺し尽くしておいて。
まがいなりにもこれは確かな感覚だと思う。
日常では決して経験することのない、その痛みは、いくら家族に話しても心の底から解かってもらうことなど出来ない。
それが分かるのは戦友だけで、今やその仲間も懐かしき我が家へ帰って行き、これからは抜け殻のようにレストランに行き、バーに行き、飢えや苦しみとは無関係な日常の中での生活、何故か戦場を懐かしむ心理は体験した者にしか分かるまいとでもいう作者の描写、驚くのは作者の経歴で、パート書店員だったが、専業作家に転向って貴女、高卒でここまで書けるって凄いじゃありませんか。
近作で話題の『ベルリンは晴れているか』、必ず読みますからね、待っててください。