愛に恋

    読んだり・見たり・聴いたり!

夏物語  川上未映子

本書は652頁もある大長編で、やたらと心理描写や情景描写が長い。私にしてはやや読みづらいものだった。著者は2008年、『乳と卵』で第138回芥川賞の受賞者で、それを読んだ時にはあまり印象に残らなかった作家だったが、これだけ長いと作家の気持ちに寄り添うようになって来る。テーマとなるのは非配偶者間人工授精(AID)で、夫婦の意志を十分に確認したうえで、無精子症など絶対的男性不妊の場合に適用される方法で、主人以外の男性ドナーの精液を使用し人工授精で妊娠を試みる技術だが、問題は精子の提供者を知ることが出来ず、提供者も自身の精子がどの夫婦に用いられたかを知るが出来ない。成長した子供が事実を知った時に、父親が本当の親ではないことに苦しむという点にある。主人公の夏子は過去に一人しか男性経験がなく、セックスが自分には合わないと思い、AIDを希望するようになる。そんな中、実際にAIDで生まれてきた男性と知り合い、その男性の苦しみを訊くうちに自身のこれからについて悩みだす。