愛に恋

    読んだり・見たり・聴いたり!

評伝・伝記・自伝・追悼文(読書録)

サラ・ベルナールの一生 本庄桂輔

REJANE - SARAH BERNHARDT - LUCIEN GUITRY. PARIS 1910. サラ・ベルナールの映像は何本か残っているが、これを見れば分るように、彼女はやや脚を引きずるように歩いている。 これは、高所から衝立の後ろに落ちる場面があった時、裏方の人がクッションの設定…

二つの絵 小穴隆一

森鴎外の『興津弥五右衛門の遺書』は乃木将軍の殉死に衝撃をうけて書かれた作品だが、確かに鴎外ならずとも興味のある事件に違いない。 私は渡辺淳一の『静寂の声』で殉死に至る経緯を知ったが、著名人の自殺には殊の外詳細を知りたくなるもので、中でも作家…

ロレンスを愛した女たち 中村佐喜子

まったくどうも『チャタレイ夫人の恋人』を読んでもいないのに、D・H ロレンスの伝記を読んでどうするの、なんていうもんです。 故に、彼が天才かどうか判断する材料を持ち合わせていないというのが正直な感想。 ともすればこの作品の性的描写と、邦訳の出版…

女ひとり ミヤコ蝶々

『夫婦善哉』を調べてみると、1955年6月13日から1975年9月27日の長きに渡って朝日放送系列で放映され、テレビ放送が始まったのは1963年8月2日で、それ以前はラジオ放送だったらしい。 私が見ていた頃は小学生だったから60年代ということになるが『唄子・啓助…

夢二と久允:二人の渡米とその明暗 逸見久美

翁 久允(おきな きゅういん)などという作家の名をこれまで聞いたことがないが、竹久夢二と深く携わった人物だとか。 著者の逸見久美は久允の娘さんで日本近代文学研究者、現在92歳。 本書は2016年発行とあるが、先日の阪神古書ノ市で、この際だからと籠に…

紅梅 津村節子

吉村昭さんが亡くなったのは平成18年7月31日。 私にとっては突然の訃報で驚いた。 記録文学の第一人者として数々の名作を世に送り出し、私も愛読者のひとりとして本当にお世話になった。 以下、ざっと読んだ本を列記してみると。 関東大震災 冬の鷹 ふぉん・…

祖父東條英機「一切語るなかれ」 東條由布子

著者、 東條由布子とは東條英樹の孫になるわけだが、その孫が「一切語るなかれ」と言われ続けてきた禁を破ったことになるのだろうか。これは勇気のいったことだろう。もちろん外に向かってよりは東條家に対しての問題で、その点、心の葛藤など気になるところ…

文豪 松本清張

何とも重たい本だった。 小説ではなく評伝と言ったほうがいい。 構成は三作に分かれ、第一章は「行者真髄」として坪内逍遥の死と妻を巡る異説という内容になっているが、これがかなり苦労した。 坪内逍遥は肺炎が原因で死んだらしいが、この本では消極的な自…

生きて行く私 宇野千代

人生此の方、いろいろな女性に出会って来たが、宇野千代のような豪快な女に巡り合ったことはない。 4回の結婚歴、生涯で家を13軒も建てた細腕繁盛記とでもいうような自叙伝的な本。 思い立ったが吉日とは将に彼女のためにあるような言葉だ。 例えばこんな場…

中原中也との愛 ゆきてかへらぬ 長谷川泰子

文壇史上によく言われる中原中也、小林秀雄と長谷川泰子の三角関係とはどんな経緯を辿ったものだったのか一度読んでみたかった。 本書は昭和49年初版で角川ソフィア文庫が平成18年に再販したものだが、語っているのは当事者の長谷川泰子本人である。 履歴書…

朔太郎とおだまきの花 萩原葉子

「天才ゆえの傲慢は許容する、というのが、まず文明社会の不文律なのである」 と言った人がいるが朔太郎は自分のことをこのように言っている。 「不遇な季節はずれの天才」 この本は簡単に言えば、萩原家が崩壊していく様を長女萩原葉子が比較的簡略化して…

太宰よ! 45人の追悼文集: さよならの言葉にかえて

本書の感想文を書くにあたって、書棚にある太宰関係の本を集めてみた。 太宰が書いた作品は入れてない。 つまり、また太宰か、ということになる。 そう、また太宰なのだ! それも45人の追悼文で、太宰の交友関係の広さを窺い知れるものになっている。 Ⅰ太宰…

オスカー・ワイルド 「犯罪者」にして芸術家 宮崎かずみ

オスカー・ワイルドほど、その生涯が作品としてなり得る生き様も珍しい。 時代の寵児にして破天荒な一生、イギリス社会の規範に反する行いと金銭感覚の欠如。 エロスなくしては語ることの出来ない、この厄介な男の人生を女性が書くというところにも興味を引…

菊池寛急逝の夜 菊池夏樹

菊池寛の『真珠夫人』が突然20万部を超えるほど売れ出したのは平成14年。 大正9年に新聞連載された小説が、数十年の時を経って、これほど売れるとは異常現象といっていい。 しかし、これがまた面白い。 続けて発売された『貞操問答』『無憂華夫人』と読んで…

永井荷風 ひとり暮らし 松本哉

「永井荷風を知ってしまった人は幸なのか不幸なのか、ある程度の年齢に達しないとわからない珍味の一つである」 と、著者は言っている。 「作品よりも荷風という人間が面白いのだ」 なるほど! 「四十を過ぎたら荷風にはまりこむという噂は本当だった」 と、…

原民喜 死と愛と孤独の肖像 梯 久美子

現在、お気に入りの作家が4人いる。 朝井 まかて 1959年8月15日 - 梯 久美子 1961年 - 村山 由佳 1964年7月10日 - 堀川 惠子 1969年11月27日 - 単なる偶然だが4人とも女性で、朝井と村山は小説家、他はノンフィクション作家で甲乙つけがたい面白さがある。 …

マイ・ストーリー 山本容子

本書は14年前に書かれたもだが、いつだったか講師をしている彼女のドキュメンタリー番組を見てとても魅力的な女性だと思ったのを記憶している。 2回の結婚と1回の同棲経験があり子供はなく、逞しく独自の道を切り開くバイタリティ溢れる女性かと思う。 読了…

モーツァルトの死 カール・ベーア

84年制作でアカデミー作品賞を受賞した『アマデウス』、私はこの映画を観るまでモーツァルトに関しては全く無知で、サリエリなる人物に関しても存在さえ知らず、毒殺説などは考えてもみなかった。 ただ話題作だからということで観に行ったまでのことで、それ…

安井かずみがいた時代 島崎今日子

数多くの逸話を残して55歳の若さで逝った安井かずみの実像を知りたくて、探していた本書をやっと手に入れた。 1965年、26歳で、伊東ゆかりが歌う『おしゃべりな真珠』で第七回日本レコード大賞作詞賞を受賞したとあるが、私はこの歌を知らないばかりか、安井…

椎の若葉に光あれ 葛西善蔵の生涯 鎌田 彗

昨日、私のこの記事を言及された方がいましたので、改めて読みなおしてみました。 うん、この記事はなかなかイケるなと思いましたので、再掲いたします。 芸術作品と言えども一世紀も経れば評価も定まり、現在の価値と相容れぬ作品などは自然淘汰され、作者…

東條英機の妻・勝子の生涯 佐藤早苗

映画『日本のいちばん長い日』は、取り分け私の好きな映画で、これまで何度も鑑賞しているが阿南陸相演じる三船敏郎は言うに及ばず、クーデターに参加した畑中少佐を演じた黒沢年男の演技も光っていた。 中でも見せ場は森近衛師団長殺害の場面だが蹶起失敗に…

島田清次郎 誰にも愛されなかった男 風野春樹

島田清次郎という小説家をいつ、どのように知ったのか全く覚えがないが昭和37年に直木賞を受賞した杉森久英氏の『天才と狂人の間』という伝記小説を古本屋で探し出して以来の対面となる。 今日、島清こと島田清次郎の名を知る人は少なく、その作品を探すのさ…

恋の蛍: 山崎富栄と太宰治 松本侑子

私にとって太宰治は、その作品以上に心中事件の比重の方が大きい。 この事件には「魅了」されるような魔力が潜んでいる。 事実、有島武郎の心中に比べると、その関連図書に於いては比較にならない。 故に繰り返し読むのではなく読まされてしまう自分に飽きれ…

田村俊子 この女の一生 瀬戸内晴美

発売後、半世紀以上の月日が経過しているが、瀬戸内さんが今も健在なのは大変喜ばしい。 しかし寂聴と改名されてからの本はあまり読んでいない。 もっぱら晴美時代の伝記小説を数冊読ませて頂いたが、何れも力作揃いでお薦め作品ばかり。 田村俊子の作品は1…

ロルカ スペインの魂 中丸 明

ヨーロッパの歴史というのは実に分かりにくい。 王位の継承、国境線の変更、宗教問題、長ったらしい名前と地理。 塩野七生さんのようにイタリアに住んでイタリア史ばかり書いている人が羨ましい。 中丸明という作家も負けず劣らずスペイン史ばかりを得意とし…

追想 芥川龍之介 芥川文

菊池寛はこんなことを言っている。 「故人老いず、生者老いゆく恨みかな」 芥川や直木を偲んでの発言であることは間違いない。 時間は無情にも生者にのみ長れていく。 芥川文さんが未亡人になったのは28歳の時。 それからの40年、夫への思いを訊き語りして…

漂泊者のアリア 古川薫

昔、その訃報記事で初めて藤原義江の名を知った。 調べてみると昭和51年3月のことで、大正から昭和にかけて活躍したオペラ歌手だが、何分古い話しで、その日までまったく知らない人だった。直木賞受賞作の本書は以前から知ってはいたが既に絶版でなかなかお…

書斎は戦場なり 小説・山田美妙 嵐山光三郎

かなり前のことになるが、BSだったかCSだったか児玉清さん司会の「ブック・レビュー」なる番組があった。 毎週見ていた関係で初めてこの山田美妙という明治の作家のことを知った。 確か単行本では「美妙、消えた」というタイトルではなかったかと思うが、そ…

兄のトランク 宮沢清六

宮沢賢治という人は戦前の文壇では特異な存在だろう。 というか文壇の枠外で屹立しているような作家のように思う。 菅原千恵子著『宮沢賢治の青春』という本を読むと、唯一人の親友保阪嘉内との宗教観の違いから袂を分かつ場面が書かれているが賢治には耐え…

黄色い虫: 船山馨と妻の壮絶な人生 由井 りょう子

船山馨の名前を知ったのは、その死を報じる新聞だったと思う。 作品を読まないまま伝記本を通読してしまったが、船山の死んだ当日夜、妻も後を追うように亡くなったということが印象深い。 船山馨の物語というよりは妻春子との借金、薬物中毒物語と言ったほ…