愛に恋

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オスカー・ワイルド 「犯罪者」にして芸術家 宮崎かずみ

 
オスカー・ワイルドほど、その生涯が作品としてなり得る生き様も珍しい。
時代の寵児にして破天荒な一生、イギリス社会の規範に反する行いと金銭感覚の欠如。
エロスなくしては語ることの出来ない、この厄介な男の人生を女性が書くというところにも興味を引く。
作者の略歴をみると1961年生まれで、東京大学大学院総合文化研究科博士課程中退。
専攻は英文学・思想史。
横浜国立大学を経て2009年4月から和光大学表現学部教授とある。
 
私の器では到底組みし難い本で、格闘するような気持ちで読んだが、それにしても規格外な才能と人生を送ったものだ。
1時間で3冊の本を読み、一度読んだ文章は記憶できたというから恐ろしい。
美の裏面にある悲哀は一貫してワイルド作品の通奏低音らしく、私もブログで「悲哀」という言葉をよく使うが、ワイルドに言わせるとこうなる。
 
「悲哀はこの世にあるものの中でもっとも偉大でもっとも美しいものだ」
 
ワイルドは警句の名人だと思うが、『ドリアン・グレイの画像』など読むと、人生を透徹しているような警句が沢山出てくる。
本を逆さにして読むような、哲学的で難しい警句に浅学菲才な私の脳は追いつかない。
スギちゃんではないが「ワイルドだろ~」と言いたくなるほど難解だ。
 
「人生の秘密は芸術にある」
 
これなども簡単には理解できない言葉だが、ワイルドの人生は本来、秘密裏に行わなければならなかったはずたが、恰も社会に挑戦するが如く振舞った事が仇となり牢獄送りになった。
本書には性に関する際どい内容が多々出てくるが、性質上それらのことは書きにくい。
 
問題となっているのは「ソドミー」という行為で、イングランドでは死刑も適用されるほどの重罪だったとか。
Sodomy、つまり不自然な性行動、要はアナルSEXのことをいっているのだ。
昔、パゾリーニの映画に『ソドムの市』という作品があったがやっと意味が分かった。
 
ともかく、有り余る才能と周囲を幻惑させるような行状。
人間観察という点では実に興味を引く。
それに数々の名言。
 
「芸術的な人生というものは、美しくも緩慢なる自殺であると僕はときどき考える。それを悲しいとは思わない」
 
「見たこともない花々と精妙な香気に充ちた、いまだ知られざる世界がある。完璧にして有毒なものだけからなる世界が、この世にはあるのだ」
 
「私は人生にこそ精魂をつぎ込んだが、作品には才能しか注がなかった」
 
「堕落の最大の楽しみは他人を堕落に導くことだ」
 
「人間の至高の瞬間とは、塵芥の中に跪き、胸を打ち、生涯に犯した罪のすべてを語るそのときなのである」
 
「芸術には一人称なんてものはないんだよ」
 
「自然は芸術を模倣する」
 
しかし、どんなに作品が素晴らしくともワイルドの生き方を是認するのは難しい。
破滅的な金銭感覚と不誠実。
他人の金で暮らしながら、更に金銭を要求してくるふてぶてしさ。
最悪なのは、終生続いたアルフレッド・ダグラスという若い恋人(男)との腐れ縁。
ワイルドの死因は今日でも分からないらしいが、破廉恥な奇行と共に作品は残った。
 
まあしかし、これほどの本を執筆した作者には賛辞を送りたい。
中でも私が特に気にいった文章がある。
 
「ネルソン提督率いるイギリス海軍がトラファルガー沖でナポレオン軍の進入を阻止して、ありがたいナポレオン法典までも一緒に撃退してしまい、ヨーロッパを席巻していた男色の脱犯罪化という波がイギリスにまで及ばなかったように性科学研究もなかなかドーヴァー海峡を渡ることはなかった」
 
そのためワイルドは1885年に制定された重大猥褻罪で2年の実刑を受けた。
本来、ワイルドが犯した罪はそれ以上のものであったが、裁判ではそこまで追求しきれなかった。
才能と奇行が同居する人間模様を観察するには桁外れに興味深い人物だ。
そういう意味で本書はなかなかの名著だと思う。
ワイルドが現在のような開放された社会システムを知ったら、何と言うか聞いてみたいものだ。
 
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