愛に恋

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「ムーンライト・セレナーデ」 離人・現実感損失症候群

たとえばフィリップ・K・ディックという作家は「この宇宙も、実は誰かの頭の中の妄想にすぎない」「過去の記憶はすべて植え付けられたニセモノ」「自分は本当は自分ではない」というような、アイデンティティの不安を描いたSF作品をたくさん生み出している。スピルバーグの映画『激突』の原作・脚本で知られているリチャード・マシスンは、妻が消え、友達が消え、会社が消え、家が消え、ついには自分まで消えてしまう「蒸発」という短編を書いている。こういうわけのわからない話を、読者が面白いと感じるのも、そうした不安をどこかで少しは感じているからで、現実と思っているすべてが、実は自分の頭の中だけの幻想にすぎないのではないか? ひどくなると、自分の身体さえ、自分のものに思えなくなることもある。さらには「離人・現実感損失症候群」という病名をつけられてしまうこともある。「ムーンライト・セレナーデ」のお時間です。良かった、まだ私はそこまで行っていない。狂人や認知症になったら自殺も考えるが。おやすみなさい、また明日。