愛に恋

    読んだり・見たり・聴いたり!

「ムーンライト・セレナーデ」のお時間です。 海軍機関学校英語教官を務めていた頃

芥川龍之介が海軍機関学校英語教官を務めていた頃、昭和天皇がまだ摂政宮で横須賀鎮守府司令長官とともに見学に見えられた、芥川は同じ姿で講義を続けていたという。授業中に、軍港横須賀の海上から、大砲を射つ音が聞こえてきて、ガラス窓をビリビリさせることがよくあった。そういうときの芥川は、その音響に耐えられないような表情をしながら「いまごろ、ヨーロッパでは、ばかなことをしているんだろうな?」とひとりごとした。「どうしてばかなことなんですか?」と、生徒が気負いだって訊くと、「君には、それが分らんのか?人殺しをやっていることがばからしいことなんだよ」と、高飛車におっかぶせていた。「ムーンライト・セレナーデ」のお時間です。漱石をはじめ、概して文士は戦争が嫌いだ。不思議なのは火野葦平を除けば文士で徴兵されたものや、あれほど激しい空襲で死んだ作家もいなかったことは、日本にとっては救いであった。私の父などもあの戦争で死んでいたら、今の私は存在しなかったわけで、人間の運とはいかなものだろうか。おやすみなさい、また明日。