その昔、『スチャラカ社員』という番組があったが、それとはまったく無関係な話で、色川武大がまだ中学生ぐらいの頃の戦前、戦中、戦後の浅草を中心に活動した、ボードビリアンや軽演劇などの売れない役者などを哀歓をもって描いた作品だ。私の知らない名を残せなかった人たちが、金なし職なし飯なし女ありの、しがない人生で、あまり健康面のことなで考えず、いつ死んでも本望だと、破らかぶれでその場限りの浮世を渡り歩いたようでもの悲しい話だ。エノケン、エンタツアチャコ、古川ロッパ、益田喜頓、水の江滝子、柳家金語楼、山茶花究、森川信、有島一郎、伴淳三郎、東海林太郎、共産党の野坂参三、志賀義雄、宮本顕治、徳田球一などは知っているが、他に出て来る無数の芸人は知らない。特に土屋伍一、二村定一、清水金一など頻繁に登場する人物に関しては全く知らない。年若かった色川武大は盛んに浅草通いをしたようで、後年、想いで深く彼らの消息を辿って、ここに1冊の本として纏めあげた由。