愛に恋

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「ムーンライト・セレナーデ」 堤る我得具足の一太刀 今此時ぞ天に抛

評論家の小林秀雄は大阪行きの急行列車に乗っていた。昭和30年代のことだという。食堂車で晩餐をとっていると、向かいに座った老夫婦が古びた人形を抱いて食事を始めた。夫人はスープをひと匙すくっては人形の口元に運び、次に自分で飲んだ。人形は丸刈りで、息子の身代わりらしい。「戦争で死んだのだろうか」小林氏はそう察し、バターを夫人のパンの皿の上に載せたーと、小文『人形』に書いている。「ムーンライト・セレナーデ」のお時間です。今日で能登地震からひと月だが、たぶんみんなも知っているだろうが、妻と3人の子供を亡くした若い旦那さんがいるが、いつもテレビに出るたびに泣いている。そりゃそうだろう、これからどうして生きていけばいいのか、何をしても何処に出かけても家族の想い出ばかり。多くの人が自分の身に置き換えた考えたことがあるだろう。若し、自分だったらどうするか。私なら生きていく気力そのものを無くすな。読書どころではない。即ち、どうやって死ぬか、そればかりを追求する。酒浸りの日々なんか真っ平御免だ。堤る我得具足の一太刀 今此時ぞ天に抛。これ解るかな。おやすみなさい、また明日。