愛に恋

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「ムーンライト・セレナーデ」 「お父ちゃん、入れてくれはった」

小噺をひとつ。乞食の父娘が、右や左の旦那さま、と往来で頭をさげている。親父の方は目が見えない。だから、前に置いた箱の中にお客がおゼゼを放り込むと、娘が「お父ちゃん、入れてくれはった」と教える。すると親父さんが「大きいのか、小さいのか」と尋ねる。金額によって、お礼の言い方が違うわけで、大きな貨幣(おかね)だったら、声を張り上げて「おありがとうございます」というのだ。さて、この子がだんだん大きくなってきた。鬼も十八、番茶も出ばな、お菰さんの娘でも、年ごろになれば野郎が放っておかない。いつのまにかボーイフレンドができたけど、メクラの親父がてんで煩い。娘とボーイフレンドは不自由なランデブーを続けたが、ある晩、親父が寝込んだのを見とどけて、ボーイフレンドを引っ張り込んだ。親父さんが眼を覚まさないように、初めは、お静かに、お静かにやっていたが、だんだん、吐く息、吸う息が激しくなり、ややこしいうめき声も、もれて来た。そいつが、とうとう親父さんの耳に入り、親父、半分寝ぼけた声で訪ねた。「娘やどうした?」「お父ちゃん、入れてくれはった」「へえ、大きいのか、小さいのか」「おっきいのや、お父ちゃん」「おありがとうございます」毎度、馬鹿々々しい噺を一席。「ムーンライト・セレナーデ」のお時間です。今日も病院に行き、肝臓に効くという注射を打たれ塗り薬を貰いました。これで治って欲しいが。おやすみなさい、また明日。