愛に恋

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「ムーンライト・セレナーデ」 犬の交尾

大正14年生まれの田中小実昌がこんなことを書いている。そういえば、近頃の犬は、どうしてさからないのだろう。ぼくたちが子どものころは、道で犬がさかると、みんなで大さわぎをして、バケツで水をぶっかけた。近頃の犬は、ニンゲンどもの裁判で、公然ワイセツ罪にひっかけられるのをおそれているのか。雄犬は、さいしょ、雌犬のうしろにのっかり、股のあいだか、ふとめの口紅みたいなのをちょろっとだして、腰をうごかしているが、そのうち、くるっとからだをいれかえて、お尻とお尻をくっつけ、犬が西むきゃ尾は東というけれど、西も東も頭になって、つながっている。そのときの犬の表情だが、雌犬のお尻にのっかり、腰をうごかしているときは、ハアハア、息づかいもせわしいことがあるが、お尻だけがつながって、西と東に頭がむいたときは、それこそ、そっぽをむいたようによそよそしい顔つきをしているのがおかしい、と言っているが、何を仰いますか田中先生、先生の時代より遥か後年の私の世代でも、よく犬のさかりを近くの神社で見ました。まだ野良犬のいた時代です。子供の私はなぜ犬のお尻が引っ付いているのか分からず、それを見つけると囃し立てていましたが、犬は離れることなく逃げて行くのが何ともユーモラスだと思って居ました。ニンゲンどもの裁判というのはチャタレー夫人の裁判のことをいっているのだろう。「ムーンライト・セレナーデ」のお時間です。おやすみなさい、また明日。