愛に恋

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「ムーンライト・セレナーデ」のお時間です。 お葉こと佐々木かねよ

伊藤晴雨という画家を知っているだろうか。戦前、責め絵なんかで一世を風靡した画家だ。今でいうところのSMだが、彼に『今昔(ぼくの)おもいで談(はなし)』という本がある。その一説に「その以前から私に情婦が出来て居た。東京美術校に通って居たモデルで、俗に「嘘つきお兼」で通って居る兼代という女で、五年ばかり関係を続けた。この女は田畑の荒物屋の二階を借りて居て、母は納豆を売り、娘は美校へ通って居た。秋田生まれの東北美人系の瓜実顔で高島田に結わせ、縛って写生するのには絶対にいい容貌と体格の所有者で、五年間にこの女を写生した画稿が積んで山を成して居たが、戦火に焼かれ、今は一枚も無くなってしまったのは一寸惜しいような気がする。今私の画いて居る女の顔は彼女の形見である。彼女は其後私の所を飛び去って、当時流行児の竹久夢二画伯と相思の仲になり、夢二氏の死亡後、麻布六本木の某酒商の女房になったと聞いたが、肺を病って死んでしまったと聞いた」「ムーンライト・セレナーデ」のお時間です。それが夢二の愛した「お葉こと佐々木かねよ」なのだ。最近も書いたが。私に忌み嫌う戦火、戦災などで焼失する文化財等の損失たるや言語に絶する。今となれば価値のある、お葉の画稿は灰となって消え去った。おやすみなさい、また明日。