愛に恋

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人間の絆〈中〉 モーム

偉大な画家になるという自らの才能を信じてパリに渡ったフィリップ。然し、その夢、破れてイギリスで医者になることを決意する。そんな彼の前に、ある日、ミルドレッドという女現れる。この小説は理論や哲学といった点ではかなり素晴らしい。例えば「画家は自己の心眼で見たものを描く、そうして、自分の物の見方を世間に強要するのに成功した場合は、大芸術家と呼ばれる」「芸術が心を苦痛から解放する」「必然的にある原因が決まった結果に至るという点にこそ、人生の悲哀を感じるべきだ」とのたまい、また、カントの定言命法を持ち出し「汝のいっさいの行為が、万人の行為にとっての普遍的法則でありうるように行為せよ」と難しい哲学など用いているのだが、こと、ミルドレッドという厄介な女に一方的に行為を持ち、まるでストーカーのような振舞から何度袖にされても諦められないという場面に至っては、もうこちらも読む絶えないというお粗末な文面になり、主人公に対し、怒りさえ覚える。