始まりはじまり。話すも涙、聞くも涙の、お菊と与平の再会物語。「はあ～、会いたかった。会いたくて会いたくて、気が狂いそうだった」「私もよ、もうこの際、死んでしまおうかと思ったぐらいよ」「お菊ちゃんが隣村に貰われていったと聞いたときは、本当に絶望したんだ」「私も必死に抵抗したんだけど、無理やりカゴに押し込められてね」「うん、権蔵に聞いたよ。泣き叫んでいたって」「ママは仕方ないから諦めなさいって言うの」「そうか、大変だったんだね」「これからは一緒にいれるんでしょ」「大丈夫だよ、うちの主人が引き取ってくれるから」
「ちょっとアンタ、どうしてくれるのよ」「なにが？」「なにがじゃないわよ。アンタのところで食べていたら、こんなに太ってしまったのよ」「それは言いがかりというものでしょ。アナタがどれだけ食べるかはアナタの勝手ですからね」「違うわよ、あんまり甘くて美味しいから毎日食べる結果になったのよ。いい加減にしなさいよ」「いい加減にしろって、美味しいものを作って出すのが、私達の仕事でしょ」「違うわよ、コレステロールが高くなるような物をお客に出すものじゃないのよ。見なさいよ、アンタたちもみんな太っているでしょ。危ないわよ」
「ポッカポカだね」「ホント、ぬくぬく」「毛布要らずだね」「三匹で抱っこして寝れば寒くないわ」「そうだねママ」「ママは止めてって言ってるでしょ。ちゃんと名前で呼んでって」「あっ、御免ごめん、そうだったねマギー」「そうよそれでいいのよ、天才バカボンパパ」「止めてよそれは。天才一家じゃないんだから」「大きな声出さないでよ、ミーシャが起きるでしょ」「寝よねよ」「そうよ、私眠たいのよ」「おやすみ」
「君、だれ！」「イルカだよ」「居るか、ここに居るじゃないか」「違うよ、イルカという名前なんだよ」「あ、そうか、イルカね」「君こそ誰だよ」「犬のトミーって言うんだ」「犬のトミーね、犬というのはわざわざ名前を付けるのか」「そうだよ、犬はみんな人間のペットになっているからね。単に犬だけではダメなんだよ。それぞれ名前を付けないと、みんな犬だからね」「じゃ、呼ぶ時には犬じゃなくトミーって呼ばれるのか。それはいいな」「我々はみんなイルカとしか呼ばれないからな」「水族館なんかで飼われたら名前が付くと思うけど」「へえ～」
「よろしく頼むよ」「こちらこそよろしく」「よかった友達がデキて」「私も前から犬の友達が欲しかったんだよ」「僕もだよ、前から猫が好きだったからね」「恋人みたいに付き合いたいな」「うれしい、友達なんかどう思うかな」「面白くなりそうだね」「ほんと、ほんと」
「ちょっとママ、洗濯物じゃないよ」「そうだよ、僕たちは汚れてないって」「昨日、お風呂に入ったばかりじゃないのさ」「煩い、静かにしなさい」「だって・・・」「だっても案山子もない」「案山子だってさ」「案山子？」「ノミがいるかもしれないから少し日干しでもしていなさい」「ノミなんていないよ」「だからいるかもしれないからって言ってるでしょ」「いないいない、だって痒くないもん」「痒くなってからじゃ遅いの」「いつまでこうやってるの」「二時間ぐらい、ちょっと買い物行ってくるから、それまでそうやってなさい」「ええ、そんな」
「よ～し、これで歩けるようになるからね。もう何処へでも行けるよ、良かったね、先生にもちゃんとお礼を言わないとだめだよ」「ワン、ありがとう、本当にありがとう。嬉しいな僕、先生、ありがとうございました。歩ける歩ける、本当に歩けるようになった。散歩行きたい散歩連れってて」「分かったわかった、行こうね散歩」「ワン」
「君、ワニの赤ちゃん！」「そうだよ」「ワニの赤ちゃんってこんなに小さいの」「悪かったね」「いや、別に貶してるわけじゃないんだよ。ただ、初めて見たからね、ちょっと驚いてるのさ」「これで普通の大きさだよ」「その傷はそうしたの」「岩の角でぶつけたのさ」「しかし可愛いね」「バカにしてるの」「違うよ、本当にミニサイズだから可愛いと思っているのさ」「まあね、大きくなると怖がって傍に来ないというからね」「そうだよ、人間だって食べられちゃうんだよ」「ところでさ、僕はこれからどうなるの」「暫くはここで飼われてあとは動物園に行くんじゃないのかな」「動物園か、仲間もいるの」「いるよ、そんなに多くはないと思うけど」「ここで一人で暮らしたいな」「そうはいかないよ、大人になると3ｍぐらいになのか知らないけれど、そんな大きくてはここで生活できないからね」「そうか、仕方ないんだね」「うん、動物園の方が広いからいいと思うよ」「分かったよ」
「行こう」「うん」「この村に俺たちの住むところはないようだ」「そうだね、どこで寝ても追い出されるし」「エサをくれる家もなかったな」「どうしてあんなに冷たいのかな」「村も貧しくてよそ者にエサをやるようなゆとりがないのさ」「のらたちも痩せていたからな」「次の村に行ってみよう」「かなり腹が空いてきたよ」「我慢しろ」「隣村までどのぐらいかな」「確か二里半ぐらいだと思ったけどな」「二里半か、遠いな」「どっかで水だけでも飲まなくちゃな」「とにかく水飲み場を探しながら行くぞ」「うん、湧き水でもあればいいがな」「それよ」
「急げ、フルスピードだ」「やってるよ、それよりお前は上を見てろ」「分かった」「どうだ、見えるか」「いや、どこに行ったか分からない」「必ずどこかで見張ってるぞ」「どこに行ったんだろう」「そのうち急降下してくるぞ」「どっちの速度が速いだろうか」「分からないが、タカは急降下して来たら早いぞ。あっという間にさらわれてしまうからな」「あっ、いた、あそこだ」「どこだ、11時に方向だ」「距離は」「約200だ」「200か、近いな。やられるぞ」「もっとスピードは出ないのか」「これが最高速度だ」「逃げ切れるかな」「う～ん」
