愛に恋

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解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯  ウェンディ・ムーア

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この人に関して、またこの本に関して解説でこのように書かれている。

「確かに偉い人であったかもしれないけど、医学史に関心のある人でなければ読む必要もなく、また実際にそういう人しか読まない」

全くだ、読む必要性が何処にある。

然しこの風変りな天才には興味があった。

これほど頑固な変人でなければ、時代の偏見に逆らってまで外科医学の先鞭を付けることは不可能だったろう。

地位も名誉も兼ね備えたにも拘わらず、死後に残したのは借金。

妻や子供に財産を残すことなく、コレクション収集に明け暮れた人生。

稼いだ莫大な金銭を蓄えることなく解剖医学品目を集めることに心血を注いだ。

墓を暴き遺体を持ち去ること複数。

障碍者、妊婦、畸形児等、人間に限らず、世界各地から動植物を取り寄せ、一日18時間は研究に没頭する外科医ジョン・ハンター。

個人で集めたコレクションは18000点、2000体以上の人体解剖をしたと言っている。

18世紀、社会全体が天地創造と洪水という聖書の教えを堅く信じていた時代、科学的外科の創始者として、その名を刻むことになった。

驚くことに当時、病気は体液の不均衡によって起きると信じられており、古典教義を鵜吞みにした医者が施す治療といえば、静脈を開いて血を抜く、毒を飲ませて吐かせる、浣腸をする、まだそんな程度だったのかと呆れる。

それらの治療法は間違いということも知っており、ダーウィンの『種の起源』が出版される70年も前に、ハンターは確率した進化論にも辿り着いていた。

すべての動物は遠大なる時間をかけて共通の祖先から進化したという結論を導き出している。

終りに訳者あとがきの一文をぜひ載せておきたい。

 

ハンターの全貌を明らかにするには、複雑多彩な文学的タペストリーを織り上げる必要があるが、その人物はそれに耐えられるだけの文章力に恵まれなければならないだろう。そして、外科学、博物学精神分析、歴史、生理学、発生学、および歯科学の知識をもち、社会批評家でもあり、感性豊かな持ち主でもなければならない。

 

それが、この著者のウェンディ・ムーアだったというわけなのだ。

確かにこれを書くには素晴らしく、驚くほどの知識がなければ書けない労作だ。