終わりに作者自身も書いているが獅子文六の代表作とは何なのか?
本人も分らず私も分らないが、この本は起承転結、大団円を描いて見事に着地点に治まるなかなかの秀作だった。
ただ、悲しいかな、大衆文学は後世、絶版の憂き目に遭い易い。
ところで、昭和25年と言えば私は生まれていない。
図体のデカい旦那と華奢な女房の二人暮らし。
仕事に馴染めず、既に会社を退職しているにも関わらず、妻に打ち明けることが出来ない夫、毎朝、出社するふりだけをしていたが遂に嘘がバレてしまった。
待っていたのは妻の一怒りの一言。
「出ていけ!」
「分りました」
と、大人しく出ていった夫。
所持金は300円、しかし一か月経っても帰って来ないことを不審に思う妻。
その頃亭主は防空壕の中で知り合ったのオジサンの好意に甘えルンペン生活。
これがまた性に合っていたのか、すっかり帰巣本能を失ってしまった。
女房が亭主を追い出すという戦前にはあり得なかった女性像。
作者の鋭い洞察力が夫婦の会話を引き立たせ、大衆小説と雖も、さすがに、そこは人気作家の腕の見せ所で、なかなか妙味があって上手い。
とにかく軽妙さが、この人の売り。
ブログ村・参加しています。