愛に恋

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田中小実昌ベスト・エッセイ  田中小実昌

この人の本はある面読みにくい。本人の弁によれば漢字を知らないと言っているが、確かにかなが多い。の割には難しいことを平気でのたまう。それもそのはず東京大学文学部哲学科中退というからよく解らない。彼は、「哲学こそは、真に普遍的な、真理のうちでも真理的な真理を語るもの、なんてふつうおもわれているようだけど、じつは、小説を読むのとおなじように、哲学の本も読んでいいんじゃないか、とぼくはおもいだした」と言うが、私には苦手な哲学を小説のようには読めない。この人のエッセイの面白さは多くの職業経験と酒、旅、そして軍隊経験からなる抽斗の多さだろう。失敗談も多いが、この世代の人は、亡くなった友への想い出話が、哀切が胸を打ちながら、蘇るように原稿用紙を埋めて行く姿に、こちらまでやるせなくなってくる。そんな田中小実昌もいつしか鬼籍の人。嗚呼、哀しや。