愛に恋

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「ムーンライト・セレナーデ」 逢ひたくて逢はずにしまふ人は澤山ある

長谷川辰之助君はとう/\故郷に歸り著かずに、却つて途中で亡くなられた。亡くなられたのは、印度洋の船の中であつたさうだ。誰やら新聞で好い死どころだと云つた。私にもさういふ感じがする。併し臨終の折の天候はどうであつたか知らない。時刻は何時であつたか知らない。船の何處で死なれたか知らない。(略) 長谷川辰之助君はぢいつと目を瞑つてをられた。そして再び目を開かれなかつた。あゝ。つひ/\少し小説を書いてしまつた。併しこれは私の想像だといふことをことわつて置くのであるから、人に誤解せられることもあるまい。隨つて亡くなられた人を累するやうな虞もあるまい。「ムーンライト・セレナーデ」のお時間です。これは森林太郎(鴎外)が書いた長谷川辰之助二葉亭四迷)への「逢ひたくて逢はずにしまふ人は澤山ある」から始まる追悼文のようなものだが、誰でも、逢ひたくて逢はずにしまふ人は澤山ありますよね。もう二度と会えない人、それが人生ですね。