愛に恋

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「ムーンライト・セレナーデ」 『ばばあ、とうとう、いっちまいやがったか』

訃報に接したときの模様を井上和夫は次のように記している。「小津さんは『ばばあ、とうとう、いっちまいやがったか』そう云って、タオルを取ると、庭の流し台に立っていかれた。水道の蛇口から、じゃじゃと水を出して、小津さんは、幾度も幾度も顔を洗った。そして洗っても、洗っても、あふれてくる涙を止めようもなく、厳寒の夕闇の中で立ちつくして居られた」小津は部屋に入ってきたが、すぐ涙が溢れてきて、手にしたタイルでゴシゴシと顔を拭いていた。昭和37年2月4日、小津安二郎の母死す。小津58歳。小津は生涯結婚せず独身を貫いた。その翌年の12月12日に小津本人も後を追うように逝ってしまう。儚い人間の運命ですね。「ムーンライト・セレナーデ」のお時間です。我が父は、私が12歳の誕生日を迎える1週間ほど前に急死して、それを聞いた当日の朝、滂沱として流れる涙を何時間も止めることが出来なかった、あの日のことは生涯忘れることは出来ない。おやすみなさい、また明日。