愛に恋

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「ムーンライト・セレナーデ」 適当にね。軍隊言葉で言えば要領よくね。

セックスの方は? という記者の質問に、「適当にね。軍隊言葉で言えば要領よくね。しかし、女なんてのは環境によって必要なくなるもんだ。戦地の生活がそうだったね。よくきく話だが、お寺の坊主が禁欲してて、えらいなんていうが、ぼくはちっとも偉いとは思わんな。環境でどうにでもなるんだ」記者は執拗にくいさがる。夫婦の味を知らずに、どうしてあのような名作が? 「夫婦のムツゴトなんてのは、撮らせりゃ下手かも知れないな。せいぜんワイ談かワイ本で仕入れるより手がないもの」と、小津は正直の弱音を吐く。しかし、最後は独身のダイゴ味を強調する。「寝たいときに寝て、好きな仕事をして、いい酒を飲んで、生命保険なんてのはぜんぜん関係なく、貯金もしなくてすむし、まあ人もうらやむ生活でしょうな。だいたい映画監督なんて重労働でしてね、家に帰えりゃ眠たくて、とても嫁さんのサービスなんて、できませんよ」(週間読売)昭和32年4月7日号。小津安二郎はいくら結婚を勧められても、娶らなかった。小津は還暦を迎えた当日に死去した。満60歳の生涯だった。「ムーンライト・セレナーデ」のお時間です。葬儀の日、原節子は号泣し「小津の死に殉じるかのように」公的な場から身を引いた。おやすみなさい、また明日。