愛に恋

    読んだり・見たり・聴いたり!

2018-05-01から1ヶ月間の記事一覧

日日雑記 武田百合子

武田百合子は夫泰淳の死から文筆活動を始めたので極めて寡作だが、作品の純度は高く日記文学者としての地位を確率している。 作家としての修行時代があったわけではないのに書き溜めていた日記が評判を呼び著述家として世に出た。 確かに評判通り天性の才が…

絶望名人カフカの人生論 フランツ・カフカ

今日、我々がカフカ作品を手にすることが出来るのはナチスの迫害を逃れた2人のユダヤ人のお蔭らしい。 カフカ自身は死の直前、日記や手紙を含め全ての遺稿を燃やすように遺言していたらしいが、それを預かった親友のブロートは結果的に遺言を無視した。 ナチ…

ヴォルガの舟ひき イリヤ・レーピン

イリヤ・レーピンといっても日本での知名度はどの程度のものか知らない。 しかし、解説にはこのようにある。 ロシアの画家のうち誰ひとりとして、レーピンほどの栄光を生前に得た人はいないと言われ、その美術界における地位は、文学界のレフ・トルストイに…

カキフライが無いなら来なかった せきしろ 又吉直樹

タイトルに惹かれてつい買ってしまった。 自由律俳句、散文、写真という構成から成り立っている。 自由律俳句というと種田山頭火と尾崎放哉を思い浮かべるが個人的にはどうも馴染めない。 五七五に捉われなくてもよい句だが、どうしてこういう発想になった…

責任 ラバウルの将軍今村均 角田房子

押入れから古いノートを引っ張り出し、故角田房子氏の本を読んでいたのは、いつ頃だったか調べてみると以下のような順だった。 昭和61年 一死、大罪を謝す 63年 閔妃暗殺 甘粕大尉 平成元年 いっさい夢にござ候 責任 ラバウルの将軍今村均 約30年前後ほど前…

ビートルズの真実 里中哲彦氏 遠山修司

『ビートルズの真実』なんていう題名からして何か胡散臭い本かと思ったら大違い。 ビートルズファンとして知られているらしい里中哲彦氏と遠山修司氏の対談集という形を取った本だったが、これが実に長い。 私の知人にサザンファンが高じて茅ヶ崎に移住した…

裁判記録「三島由紀夫事件」 伊達宗克

長い人生の中には、あの日、何処で何をしていた、という記憶に残る1日がある。 例えば昔の人なら終戦の日を鮮明に覚えていることだろう。 私の場合は昭和45年11月25日のこと、学校帰りに知り合いのお姉さんから声をかけられた。 「三島由紀夫が自殺したよ。…

『志士の肖像(上・下) 早乙女貢

歴史小説作家だった故早乙女貢氏は生前『その時歴史が動いた』などで何度か拝見したが、いつも和服姿で、どこか古武士然とした風貌は少し近寄り難いタイプの人だった。 司馬遼太郎ファンの私は司馬さんが書かなかった穴埋めと言っては失礼だが山田顕義を扱っ…

「ダビデの星」を拒んだ画家フェリックス・ヌスバウム 大内田わこ

1904年12月11日、ドイツ系ユダヤ人として生まれ、1944年8月9日、アウシュビッツで死亡した画家フェリックス・ヌスバウムと言っても知らなかった。 父フィリップはドイツに対する強い愛国心の持ち主で、第一次大戦でドイツ軍兵士として従軍、一級鉄十字章を受…

残酷美術史: 西洋世界の裏面をよみとく 池上英洋

『拷問全書』『日本死刑史』など読んでいると何ゆえこんな本が読みたいのか、 エロ本を読むのに似て、あまり堂々とは読めない。 人類史は殺戮の歴史と言ってもいい。 有史以来、想像力の全てを注いであらゆる拷問を考案してきた。 そのバリエーショの広さは…

安政の大獄 - 井伊直弼と長野主膳 松岡英夫

いつの時代でも宰相暗殺は驚天動地だろうが大老暗殺は当時の幕閣をどれだけ驚愕させたか!。 それも登城中の桜田門外で。 本書は殆ど安政年間の問題で尊王、佐幕、攘夷、開国と複雑にして猫の目のように変わる政局を捉えて面白い。 ペリー来航時の筆頭老中は…

夢を食いつづけた男 おやじ徹誠一代記 植木等

はじめに。 同時代人の先輩に対しては当然、敬称を持ちうるべきだが、個人的な読書感想文なので敢えて敬称は略させてもらった。悪しからず。 中山秀征司会の『うちくる!?』という番組が一昨年だったか終了したが、あれはいつだったか、まだ飯島愛がアシス…

てんやわんや 獅子文六

本書の出版は昭和24年。 戦時中に疎開した伊予を題材に書かれている。 昔、流行語にもなったタイトルだが私はまだ生まれていない。 映画化は翌25年で淡路千景、佐野周二、志村喬が出演しているが見てない。 筑摩書房で復刊が続いている文六作品だが、くすく…

モンパルナスの灯―モジリアニ物語 M.ジョルジュ=ミシェル

何とも七面倒くさい本だった。 小説という形態をとっているが、芸術家を題材にした外国文学にありがちな、哲学的な会話が多く、通常では考えられないような単語が頻繁に出て来る。 読解力の限界で肩が凝るばかり。 それより何より、モジリアニの経歴が主題で…

アイヒマン調書―ホロコーストを可能にした男 ヨッヘン・フォン・ラング,

さて、何をどう書こうか。 今回ばかりは中々良いイントロダクションが浮かばない。 数日悩んでパソコンに向かったが、どういう着地点になるか、まあとにかく始める。 よく、新聞でこんな記事を読む。 複数殺人者の量刑を巡る裁判で、事実認定そのものは争わ…

ゴッホ〈自画像〉紀行 木下長宏

フィンセントが『炎の人ゴッホ』と呼ばれるようになのは56年制作のハリウッド映画に拠るところが大きいらしい。 主演はカーク・ダグラス、確かに自画像など見ると、この当時はダグラスが適役のように思うしまた良く似ている。 本書は40点を超える自画像に焦…

未完 佐伯祐三の「巴里日記」吉薗周蔵宛書簡

未読だが落合莞爾なる人の作に『天才画家「佐伯祐三」真贋事件の真実』なるものがある。 調べてみると以下のような内容らしい。 平成6年、岩手県在住の吉薗明子という女性が亡父周蔵の所有していた佐伯の未公開作品を福井県武生市に数億で寄贈しようとした際…

ちんちん電車 獅子文六

昭和30年代、子供のお小遣いは、おそらく1日10円と相場が決まっていたのではなかろうか。 その10円でお好み焼きが食べれた時代、まだ至る所、網の目のようにちんちん電車が走っていた。 キャラメル、ガム、チョコレート、アイスクリーム、そしてお菓子の量り…

双六で東海道 丸谷才一

以前、BSの『原宿ブックカフェ』という番組で紹介されていたので、なら読んでみようかと思い、早速手に取ってみたが丸谷才一の博覧強記だけが印象に残る本だった。 テレビ解説者が言っていた「遅刻論」の章だけを頼りに購入したようなものだから、その触りの…

和解 志賀直哉

自分の親が物書きだったらよかったのにと常々思っている。 生前、父は経歴や想い出を何も書き残さなかった。 実母との激しい確執があったとは語っていたが、それがどのような原因に拠るものか今となっては知る由もない。 そこへいくと近代作家は私小説や随筆…

Footloose

www.youtube.com 明るく健康的でセクシー! これぞ青春ですね、本当に楽しそう。 そういえば最近、ケビン・ベーコンやケニーロジャースはどうしているのだろうか。 あれから34年の歳月が流れた。 ケビン・ベーコンが階段から降りて来てみんなに向かって叫ぶ…

さいごの色街 飛田 井上理津子

売春防止法の施行は昭和33年3月31日なので当然、私は遊郭に登楼したことはない。 昔は色街などと表現したが、その手の遊びをしなかった男なんていたのだろうか? 啄木は言うに及ばず芥川でさえ広津和郎に拠って、その日の事を書かれている。 しかし、宮沢賢…

パイド・パイパー 自由への越境 ネビル・シュート

パイド・パイパーと言えば民間伝承の『ハメルンの笛吹き男』を思い出される人も多いだろうが、この小説はそんなメルヘンチックなものではない。 欧州大戦の最中、イギリス空軍士官だった息子の死を機に憔悴の旅へと向かう70歳のハワード。 釣竿1本持ってフラ…

高倉健と任侠映画 山平重樹

基本的に時代劇が好きな私は子供の頃から東映や大映の映画をかなり観てきたが、中でもお気に入りは雷蔵扮する『眠狂四朗』と藤純子の『緋牡丹博徒』 他にも東映の市川歌右衛門、片岡千恵蔵、月形龍之介、大川橋蔵、中村錦之助、東千代之介、大友柳太郎、近衛…

近衛文麿「黙」して死す 鳥居民

まったく論評に困る本を読んだものだ。 著者の本は初読みだが、かなり憶測でものを言っている。 勿論、私にその説を論破できるほどの学識などありはしないのだが、どの部分を取っても納得できる手応えがなかった。 天皇を護るためには木戸内府か近衛公のどち…

水戸黄門 天下の副編集長 月村了衛

古書探訪とは言い換えれば古本屋を定期的にパトロールするようなものだ。 何か、いい獲物はないかな。 とびっきりの獲物などはそう易々とは見つからないが、今日はこのぐらいで我慢しておくかというような代物は時に引っ掛かる。 勿論、手ぶらでの御帰還もあ…

訃報 古川薫

5日、作家の古川薫さんが亡くなったらしい。 小泉純一郎、安倍晋三首相を始め政界にも根強いファンが多い直木賞受賞者でもあるが92歳だったんですね。 直木賞ノミネート回数10回という最高記録の持ち主で、作風は本人が山口県生まれなので長州出身の歴史小…

ルポ 中年童貞 中村淳彦

初見で購入を決意し読んではみたが題材に興味はあるものの、私ならまず書かない内容だ。 ある調査によると、日本では中年童貞と言われる人は209万人も存在するとか。 原因として母親への依存体質が強く精神年齢が異常に低く過保護、過干渉で自立出来ないこと…

怠惰の美徳 梅崎春生

祖父は明治の終焉を知っている。 父は大正の終焉を知っていた。 そして私は昭和の終焉を知り、今また平成の終焉があと1年に迫ったことを知る。 昭和が終わろうとしていたあの日、平成生まれが居なかったあの時代。 昔は三代といえば明治・大正・昭和と言われ…

仁左衛門恋し 小松成美

時代劇俳優で誰が好きかと訊かれれば迷うことなく市川雷蔵と答える。 子供の頃から『眠狂四朗』の大ファンで、よく円月殺法を真似したものだ。 特にあの決め台詞が堪らない。 例えば・・・! 「酒はひとりで呑むものと決めておる」 「男は総じて美人の肩を…