愛に恋

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ゴッホ〈自画像〉紀行 木下長宏

フィンセントが『炎の人ゴッホ』と呼ばれるようになのは56年制作のハリウッド映画に拠るところが大きいらしい。
主演はカーク・ダグラス、確かに自画像など見ると、この当時はダグラスが適役のように思うしまた良く似ている。
本書は40点を超える自画像に焦点を当て、なぜこれほどまでに自画像を残し、そこに何を見出したのか論じて余すところがないが、如何せん美術評論は難しい。
何世紀もの間、絵画といえば宗教画だったが19世紀、印象派の出現によって、
 
「目に見えないものは描かない」
「自分の目に映ったものを映ったように描く」
 
という印象主義の考えによって絵画史は一大転機を迎えたようだ。
ゴッホはもともと父の後継者として若い頃から宗教熱心で将来の夢は牧師だった。
聖書を絵筆に持ち替えてもゴッホの貧しい人と共に在ろうとする姿は変わらず常に弱者に寄り添うような作品を残した。
 
しかし、1880年からの5年間のオランダ時代、自画像を1点も描いていない。
2年間のパリ生活で30点以上の自画像を残しているのに。
作品を見比べてみると、どれも印象に残る顔つきで一度見たら忘れない顔。
 
信条は既成の権威と化したキリスト教プロテスタントに代わる、より純粋で真実な信仰に身を捧げる絵画を求めてる人になりたかったと、かなり突き詰めて事物を考える人だったようだ。
集中力抜群で終焉の地、オーヴェルで描いた油彩画は71点以上。
2か月と1週間で71点というから、ほぼ、1日1点の計算になる。
 
手紙の数も半端ではない。
テオへの書簡は今日読むことが出来るが、肝心の自画像には制作年月日がない。
しかるに著者は丹念に一枚一枚、その変遷を辿って、気の遠くなるような作業に没頭して上梓に至った訳だが、いやはや、尽きることのないゴッホ研究には頭が下がる。