愛に恋

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てんやわんや 獅子文六

 
本書の出版は昭和24年。
戦時中に疎開した伊予を題材に書かれている。
昔、流行語にもなったタイトルだが私はまだ生まれていない。
映画化は翌25年で淡路千景、佐野周二志村喬が出演しているが見てない。
 
筑摩書房で復刊が続いている文六作品だが、くすくす口うほど面白かった。
伊予弁を交えた文体も冴え読み応え充分。
少し引用したい。
 
驚いたのは、裏門である。淙々たる相生川の河岸に面し、数珠の老松を前景に、何万石の大名の居城といっていい規模と外観の中央に、厳めしい金具を打ちつけた大名門が、裏門なのである。表入口の百倍も立派で、威風堂々たる裏門なのである。
 
裏門は裏通りへの出口で、一向、重要ではないのに、何の目的で、こんなものを建てたのであろうか。門の両側は、宛然(さながら)、城の本丸というべき石垣と土壁なのであるが、その内部は、以前、酒や醤油の醸造に充てられたのだという。酒蔵や醤油蔵の建築が、なぜ、そんな威容を必要とするのか。
 
ユーモア小説家ならではの軽い筆致ばかりではないということを確認させる文章だ。
しかしながら大衆小説は戦後、大いに人気を博し頻繁に映画化されたが、今日、あまり顧みられることはなくなった。
例えば森繁の『駅前温泉シリーズ』や『社長シリーズ』はドタバタ劇で痛快だが文藝作品ではないため時代が求めた一過性のものだった。
だが、俳優陣は錚々たるメンバーなのだが。
故に文六作品も殆ど絶版の憂き目にあって来た。
 

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