愛に恋

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メダカの花嫁学校 阿川佐和子

阿川佐和子向田邦子のエッセイを読むに、どちらがどう面白いのか考えてしまう。先ず、決定的に違うのは二人の年齢差で親子ほど年が違う。向田は戦前の生まれで、戦時中の話など物の無かった時代、私も知らない遠い昔の思い出話など懐かしく語ることもある。共通点といえば、二人は共に4人兄妹で父親恐怖症。父は短気でよく怒鳴り、場合によっては拳骨が飛んで来る。文章的には向田の方がやや硬さがあり教養豊かのように思う。感心するのは来歴故事など格言が頻繁に出て勉強になる。それに比べ阿川の方は文章が平明で分かりやすく面白い。だがエッセイストは斯くあるべきという点は、両者ともへりくだってかなり自虐的に自分を見ている。そこが何とも私を惹きつける点なのだ。専業主婦願望に燃え、お見合い三十回をこなした日々と阿川は書いているが、そこまで結婚願望が強かったのか、あまりに長い独身時代が続いた結果「残るは食欲」なんて言って、性欲は枯れてしまったらしい。私が笑ったのは「忘れ得ぬ言葉」の中で、ある日、変な電話がかかってきた。「佐和子さんいますか」いやらしげな男の声である。「はい、わたくしでございますが」「おれさぁ、今、〇〇ズリしてんだ」(こんな単語、さすがに私も全部、活字にする勇気はないけれど、その時は言葉の意味すら知らなかったので、怖くもなんともない)「えっ、なんですって」「あのさ、今、俺、〇〇ズリしてるの」「何、〇〇ズリ?」と大声で反覆した、そのとたん、部屋の向こうにいた母がまっしぐらに飛んできて、私の手から受話器を奪い取り、荒々しく受話器の上に置いた。「なんてこと、口にするんですか。そんな電話、さっさと切ればいいんです」母は血相を変えて娘を叱りつける。どうしてもその場面を空想する。今後とも読まずにいられない彼女の話だ。