愛に恋

    読んだり・見たり・聴いたり!

アガワ家の危ない食卓  阿川佐和子

一度、エッセイストと付き合ってみたかったな。特に向田邦子阿川佐和子みたいな文章を書く人なら大歓迎だ。女性としては中野信子みたいな人が、上の二人のようなエッセイを書いてくれたら、もう即、交際を申し込む。さて、阿川佐和子も最近やっとこさ結婚して「残るは食欲」なんて言っているが、いつの間に性欲も枯れ果てたか。然し、この人の場合、確かに食に関してのエッセイの方が面白いかもしれない。逆立ちしたって性欲の話なんか出てこないだろう。特段に喝采を送りたいのは、父、阿川弘之との食に対するエトセトラ。とにかく弘之は食に対しては煩いが、ある時、朝ごはんを食べている時に、「今晩の夕食は何を作ってくれるのかな」と言い出す。それで思い出したが、私も昔、ランチを食べて喫茶を出たら、「ねえ、夕食何にする」と口癖のように言う彼女がいた。すかさず「今、昼ごはん食べたばかりじゃない」と反論していたが。もとい、食卓を囲んでいる最中に父がおならをする。全員、茶碗を持って「臭~い」と言って退散する。とにかく弘之は海軍出身の頑固一徹で為政者。何かというと怒鳴る。食事が不味いと「佐和子、明日は何か美味しいものを食べに行こう」と誘われる。何時間もかけて父のために作ったものが台無しになる一言。ともあれ、彼女の文章は自虐的で面白い。サランラップは洗って2度3度使う、それでみんなから顰蹙を買い、その話が有名になってしまう。割りばしは一回使ったぐらいでは捨てない。何度も洗って使い直す。私もですが。外食で気に入った割りばしが出ると、店員に断って持ち帰る。父譲りの文才に長けた彼女のエッセンスはこれからも読んでいきたい。