『薔薇族』だったか何だったか、確か二種類ほどSM雑誌があるのは知っていたが、その手の本は一度も買ったことがない。
団 鬼六、宇能鴻一郎と有名なエロ・SM作家がいたが名前しか知らなかった。
本屋に行くと、官能小説のようなコーナーもあって、立ち読みなどしている人を見かけるが,それもまったく興味がない。
然し、古本市で見かけた自分の体験談を基に、緊縛の文豪が老境に切り拓いた新境地なる小説などと銘打って、また谷ナオミなどに付いても書かれているので、興味本位で買ってみたが、これが笑えるほど面白い。
解説には、まったくSMとは縁がなさそうな阿川佐和子とあるので、これまた興味をそそった。
目次は四章に分かれており、中でも一番面白いのが表題にもなっている『不貞に季節」なのだが、何でも著者の妻は学歴も高く、地元では相当な美人で評判な女性。
神奈川県S市で母校の中学の英語教師、そこへストリップ劇場、アングラ劇場で働いていた著者が知人の紹介で、同校の国語教師として就職したところから話が始まるのだが、故あって二人は校長の仲人で結婚。
裕福な妻の実家が海辺の近くに家も建ててくれるという羨ましい境遇で新婚生活を送っていたのだが、3年程経ったころから授業中にこっそりエロ小説を書きため投書していたら、意外とこれが好評で東京の出版社から執筆依頼があり、教師を辞め東京に事務所を構え暫く妻と別居。
然し、その間、部下の川田から女子大生を紹介され、いつしか二人は愛人関係になるが、妻に団 鬼六なるペンネームでエロ小説を書いているのがバレ、愛人を確保していることも知られてしまった。
だが、ここで引き下がる妻ではなく、部下の川田と妻は関係を持ち、腹に据えかねた鬼六だったが、自らも脛に傷を持つ手前、部下を叱ることも出来ず、妻との情事を洗いざらい、事細かく訊かせろと迫る。
その前に著者の妻へのセックス感を書いておく。
妻と愛人の京子を肉体的官能的に比較してみると、妻の方に何となくどぎつい雌的要素が潜んでいる感じだった。セックスに入ると、情念の振幅度の昂(たか)まり加減が妻の場合は異常に鋭敏のように思われるのである。大体、インテリ層に属する女性というものは性的情感の強い女が多いといわれるが、妻の場合は女らしさというか、情の深さというものとは関係なしに性的な貪欲さが感じられるのであって、我を忘れて、もっと、もっと、とねだる事があり、その点、妄想では過激な行為を求めるものの実際行動においては、性的に淡泊の方な私は、たじたじとなって逃げ腰になることがあった。
と語る鬼六が捨て鉢になって川田に、
「あいつと、スムーズにセックスができたのか」と聞くと、
「はい、バッチリ三発やらせてもらいました」
この、バッチリ三発という言葉がしばらくの間、私の耳から消えず、うなされたものであった。
川田の逸物は酔っぱらったチンチン踊りで見たことがあり、かなりの巨根で、あんなでっかい代物で妻が長時間、田楽刺しにされ、こねくり廻され、ヒイヒイ喜悦の声をはり上げたのかと思うと錐で胸を抉られるような嫉妬がこみ上げてくるのである。
その嫉妬がマゾヒスティックな快感に繋がって、妻に対し、これまでどういう手管を発揮したのか、私はしつこく川田に得意の猥談を所望した。
とあり、鬼六はさらに突っ込んで話を聞いていく。
川田は不倫相手の旦那に、いやいやながら得意げになって洗いざらいを話していくから可笑しい。
私は何度も、その辺りの件(くだり)を読んでは一人可笑しみを堪えられなかった。
然し、私ならそんなことは聞けない。
ダブル不倫だからお互い様と妻は開き直るが、自分より精力が強い相手の自慢話など聞きとうないと身悶えしてしまうが。
まあ、その辺りが団 鬼六の団 鬼六たる所以なんだろうか。