愛に恋

    読んだり・見たり・聴いたり!

束の間の午後 萩原葉子

 
 表題作の他に『対岸の人』『葉桜』『息子の結婚』『鬼が笑う』計五編の自伝的小説で、かなり生々しい。
言うまでもないが、著者は朔太郎の長女で経歴によると1944年に職場の上司大塚正雄と結婚して1子を儲けたとあるが、この子が朔美になる。
因みに男性。
 
『対岸の人』では、結婚生活の破綻を描いているが、昔にありがちな暴力を奮って葉子を虐待しているが、なかなか離婚に踏み切れず10年生活を共にしている。
夫婦が争うたびに、泣く朔美を見ていると不憫に思うが、二人は余程相性が悪かったのか始終喧嘩が絶えない。
併し葉子もヤラれてばかりではなく、場合によっては取っ組み合いになる。
旦那の方はかなり小柄な人のようで、葉子もただ黙っているばかりではなく、ある夜、夫が一頻り暴れた後に包丁を持ち出し、葉子の襟首を掴んで言う。
 
「なんだ、別れる理由を言ってみろ」
 
これだけは一度言ってから別れたいと、かねてからその機を待っていたのだ。
 
「片輪じゃありませんか」
「・・・・・」夫は一瞬蒼ざめた。
「私だってまだ若いのに、生ける屍の毎日を強いられていました」
「お前は動物だ!犬や猫に等しい女じゃないか!」
「女の悦びも知らないで掻爬ばかりさせられて、私の身体は疲れ果ててぼろぼろです」
「俺に相談なしに堕胎するからだ」
「相談すれば産めと言われるわ」
「俺は何人も子供がほしかったんだ」
「片輪でもね」菊子は殺される覚悟で言った。
「よおし!もう一度言ってみろ」
 
と、まだ続くが掻爬とは「そうは」と読み子宮の中の内容物をきれいに取り去る手術でで、つまり堕胎のことだろう。
しかし、片輪とは何を指して言っているのだろうか?
普通の男性と比べ異様に背が低いことか、或いは男性自身に何か問題でもあったのか。
だが、「女の悦びも知らないで」と言っているので満足していなかったのは確かなようだ。
さてこそ、二人は険悪なムード何ていうもんじゃない。
因みに小説では名前が菊子になっている。
併し、面白いのは戦時中、菊子の見合い相手を探すのに、縁談を持ってくる相手はこんなことを言っている。
 
「何しろ男一人にトラック一台分の女のいる世の中ですからね」
 
そうか、若い男はみんな兵隊に取られ、残ったのは老人と子供だけというわけだ。
だから、よほど器量が良くないと売れない、失礼ながら萩原葉子という人は父親似なのかどちらかというと不美人。
離婚後の男性遍歴については知らないが『束の間の午後』では年下の男に入れ上げて金を騙し取られる話が出て来るが、本当のことだろうか。
 
ともあれ萩原葉子には有名な毎日芸術賞を受賞した『蕁麻の家』三部作というのがある。
『蕁麻の家』『閉ざされた庭』『輪廻の暦』がそれで、いつの日か読んでみる必要があるが、必ずやいつか。
 
ポチッ!していただければ嬉しいです ☟