愛に恋

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名優・滝沢修と激動昭和 滝沢荘一

新劇の神様と言われ、もともと画家志望だった滝沢修が舞台俳優としてデビューしたのは1925年だとか。
しかし当初は何をやってもみんなから笑われるばかりで例えばこんな逸話が残っている。
 
ただ一言の台詞「補欠だ」と言いながら大砲に弾を込める稽古の時、演出家が「滝沢君、オケツじゃないよホケツだよ」と言われ
「いや、オケツなんて言った覚えはありません」と答えると
「じゃあ、もう一度やってみろ」と。
そこで大きな声で台詞を繰り返したところ、ドッと笑い声が起こった。
 
余談だが新劇とは旧派に属する歌舞伎や新派に対抗して作られたヨーロッパ近代劇の影響で新しい手法による演劇とでもいうものだが滝沢修の代表作『炎の人』『セールスマンの死『夜明け前』『オットーと呼ばれた男』などはいずれも見てない。
つまり舞台劇は見たことがない。
 
私の記憶に強く残っている滝沢の作品は昭和38年の大河ドラマ赤穂浪士』で吉良上野介を演じたこと。
上野介はいつも憎まれ役で昔は新藤栄太郎、月形龍之介など、いかにも憎き敵役のイメージを露骨に表した俳優の定番で滝沢はそのイメージにピッタリだった。
しかし、私が最も感動した役柄は昭和51年朝日テレビ放映の『落日燃ゆ』。
城山三郎原作で文官中、ただ一人、A級戦犯として絞首刑になった広田弘毅元首相を演じこれがまた良かった。
 
映画では何と言っても昭和45年作品、日活オールキャストで制作した『戦争と人間』。
この作品は4部作からなり、何と9時間23分という長大なものだが実に見応えのある映画だった。
劇中、五代財閥の総帥を滝沢が演じているのだが、その重厚感たるや流石なもので弟役は芦田伸介
 
しかし役者魂というかゴッホを演じるにあたって一か月で6キロ減量、レーニン役ではマルクス全集を読破したという話しも伝わっているから凄い。
メークした顔もゴッホレーニンにそっくり。
滝沢修という役者は自分の肉体を他者として扱い得る極めて珍しい才能をもった人だと書かれている。
 
宇野重吉とは数十年来の盟友らしいが果たして演技力はどちらが上だっただろうか。
因みに滝沢は太平洋戦争が始った前後、治安維持法に引っ掛かり刑務所暮らしだった。
戦前、築地小劇場を活躍の場としていた左翼系の人たちは、殆どこの罪で拘禁されている。