偶然完全 勝新太郎伝 田島健太

 
あの有名な勝新太郎のがん告白会見から、既に21年もの歳月が流れてしまった。
その日、96年11月22日の会見ではこんなやりとりがあった。
酒と煙草は体に悪いからやめたと言ったばかりの勝はその場で煙草を吸い初め、そしてのたまう。
 
「煙草はねぇ、絶対にやめたよ」
 
そう言いながら旨そうに煙を吐き出し、それから。
 
「おい、ビールを持って来てくれ」
 
勝新太郎、豪放磊落にして天才。
それでいて神経細やかな優しい人だったと人は言う。
この本を読んで、改めて勝新人間性に惚れ直した。
確かに一見、強面で親分肌な風貌だが、彼ほど人間味溢れた人も稀だろう。
多くの人が故人になったが、その配下には錚々たる顔ぶれが。
 
松田優作ジョー山中、桑名正博、内田裕也、川谷拓三、原田芳雄山城新伍黒沢年男水原弘など数え上げたら切りがないが、それほど勝新は男に惚れられた存在だった。
勝新の天才性は世に名高いが私は以下の三つの点でそれを認めている。
 
まず、座頭市シリーズで見せた殺陣の凄さ。
逆手斬りの盲人で居合の達人。
悪名シリーズで朝吉を演じるド迫力と河内弁で捲し立てるあのセリフ回し。
 
五社英雄の名作『人斬り』で岡田以蔵を演じた勝新
中でも土佐藩の参政吉田東洋暗殺の場面。
夜、降りしきる雨の中、橋の下から暗殺現場を見ている勝新の演技力。
それが彼をして天才の名に相応しい役者だと思った瞬間だった。
また京都三条木屋町で本間精一郎暗殺シーン。
見るものを圧倒していた。
それがこのビデオの中頃にあるが、何と言っても彼の目付きと殺害後に刀の刃こぼれを見る場面、素晴らしい!
 
それにしても勝新という人は役者、人間としてもスケールの大きさでは群を抜いており、読了後の感想としては、本が面白かったというより勝新の魅力に惹き込まれたと言った方が正しい。
以前から誰かの付き人になるなら美空ひばりと勝手に思っていたが、現在でも多くの人がその魅力を語るように勝新なら付き人になってもよいが水原弘の二の舞だけはまっぴらだ。
ただし怒鳴られることは覚悟しなければならない。
忘れられないのは勝新死去の時、山城新伍が言っていた一言。
 
「役者はこれで終わりやな」
 
勝新に関しては多くの事を書きたい気持ちもあるが、中でも印象に残った一場面。
97年のある日。
検査のため病院内のエレベーター前で車椅子に座っていると、隣にも車椅子が来た。
ふと横を見ると、そこには萬屋錦之助が座っており、お互いに手を挙げて挨拶。
共に咽頭ガンを患い声が出ず、奇しくも同じ病院に入院し、これが今生の別れになった。
 
東映大映で活躍した二人はデビューも同じ年。
そして錦之助は97年3月10日、勝新は6月21日、この世を去った。
大スターたちが世を去って久しいが、それにしても昭和の30年代。
映画の全盛期に屋台骨を支えた人たちが、みな居なくなったのは寂しい限り。
 

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