愛に恋

    読んだり・見たり・聴いたり!

詩歌・川柳・俳句・短歌(読書録)

殉情詩集 佐藤春夫

感傷風景 あなたとわたしとは向かひあって腰をかけ、 あなたはまぶしげに西の方の山をのぞみ、 わたしはうっとりと東の方の海をうかがい、 然しふたりはにこにこして同じ思いを楽しむ。 とありし日のとある家の明るいバルコン。 何も知らない家の主人にはよ…

甲申正月述懐 河上肇

河上肇が没したのは昭和21年1月30日、『貧乏物語』『自叙伝』など有名だが、どちらも未読でいずれは読みたいと思うが、果たして私などに読めるか、何だか難しそう! 経済学者である河上はこんなことを言う。 「貧乏をなくすには金持ちが奢侈をやめることで、…

蒼馬を見たり 林芙美子

彼女を連れ立って尾道へ旅立った朝、それは春まだ浅い二十歳の私。 ホームに降り立つと右手に瀬戸内、左に小高い山、その昔、志賀直哉が移り住んだのも頷ける風情と潮の香。 思えば林芙美子に惹かれての旅立った。 『放浪記』より先に『浮雲』を読んだ私は、…

倚りかからず 茨木のり子

行方不明の時間 人間には 行方不明の時間が必要です なぜかはわからないけれど そんなふうに囁くものがあるのです 三十分であれ 一時間であれ ポワンと一人 なにものからも離れて うたたねにしろ 瞑想にしろ 不埒なことをいたすにしろ 遠野物語の寒木戸の婆…

セクシィ川柳 東 正秀

『セクシィ川柳』と題してはいるが、もちろんエロ本ではい。 下ネタ川柳を学問的見地で捉えたもので、少し難しいが、俳句も川柳もそのルーツは和歌から生まれた連歌に行き着くということらしい。 光秀が本能寺へ向かう前に連歌師と句会を開いたあの連歌です…

夜のミッキー・マウス 谷川俊太郎

詩というものは、その時に作家の内面に勃興した閃きや懊悩を活写するようなものだから、場合によっては本人以外、理解し得ない事柄や比喩が多々ある。 あまりに写実的でないが故に、その飛躍に着いて行けない場合、一行読むごとに失念していくようで、読んで…

歌集 秘帳 湯浅真沙子

湯浅真沙子、今回、この歌集を手に取るまではまったく知らない人だった。 それもそのはずで明らかになっている経歴と言えば、富山県生まれ、大正末期から昭和の初めに上京し日本大学芸術科に通い、結婚して間もなく夫と死別、本人も20代で亡くなっている。 …

カキフライが無いなら来なかった せきしろ 又吉直樹

タイトルに惹かれてつい買ってしまった。 自由律俳句、散文、写真という構成から成り立っている。 自由律俳句というと種田山頭火と尾崎放哉を思い浮かべるが個人的にはどうも馴染めない。 五七五に捉われなくてもよい句だが、どうしてこういう発想になった…

おれの期待 高見順

徹夜の仕事を終えて 外へおれが散歩に出ると ほのぐらい街を 少年がひとり走っていた ひとりで新聞を配達しているのだ おれが少年だった頃から 新聞は少年が配達していた 昔のあの少年は今 なにを配達しているのだろう ほのぐらいこの世間で なにかをおれも…

萩原朔太郎『郷土望景詩』 幻想 司修

司修、あまり知らない人だが経歴を見ると昭和11年生まれで小説家、画家にして法政大学名誉教授という肩書を持っている。 この本は詩画集として萩原朔太郎の詩に司さんの幻想的な挿絵でなり立っているが、朔太郎の詩をイメージして書かれた絵というわけではな…

名言探訪

「若さは、夢であり、花であり、詩である。永久の夢といふものはなく、色褪せない花はない。また詩はその形の短いところに一層の力がある。若さも亦、それが滅び、それがうつろひ、それが長くないところに一しほの魅力がある」 これは佐藤春夫の名言だが、流…

風天 渥美清のうた 森英介

子供の頃からの洋画ファンなのだが、なら、誰の映画を一番沢山観ているかといえば渥美清と倍賞千恵子となる。 寅さんシリーズ全作と、それ以外の作品も多数見ているので、それぞれ50作以上は観たはずだ。 渥美清という俳優を知ったのはかなり昔のことで『夢…

シルバー川柳

私は俳句や短歌は得意ではないが川柳の方はわりかし好きなタイプなのだ。 以前、江戸期に詠まれた『セクシー川柳』なる本も紹介したような気もするが、よく耳にする『サラリーマン川柳』なる男の悲哀を歌ったものを読んでいると、世の男性諸氏には大いに頷く…