愛に恋

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殉情詩集 佐藤春夫

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 感傷風景
 
あなたとわたしとは向かひあって腰をかけ、
あなたはまぶしげに西の方の山をのぞみ、
わたしはうっとりと東の方の海をうかがい、
然しふたりはにこにこして同じ思いを楽しむ。
 
とありし日のとある家の明るいバルコン。
何も知らない家の主人にはよき風景をほめ、
ふたりはちらちらとお互いの目のなかを楽しむ。
恋人の目よそれは何という美しい宇宙だろう。
 
全くあなたのその目ほどの眺めも花もどこにあろう・・・・・・
おお、思いだすまい。ふたりは庭のコスモスより弱く、
幸福は卓上にさっと消えた鳥かげよりも淡く儚く、
歎きは永く心に建てられた。あの新築の山荘のように。
 


佐藤春夫が『
殉情詩集』を発表したのが大正10年。

その中ではこの詩が特に気に入っているのだが、谷崎潤一郎と千代の離婚成立後に三人連名で挨拶状を知人に送り、「細君譲渡事件」として新聞などでも報道され反響を呼んだのが昭和5年。

佐藤春夫が前妻と離婚したのが大正8年
 
この詩はいつ書かれたんだったか。
「わたし」とは、春夫本人で「あなた」は谷崎夫人のお千代さんだが、まだ谷崎と離婚前ではなかったか。
 
昔、何かの本で、この詩にまつわる話しを読んだのだが、記憶が正しければ離婚前のはずだが。
文脈からして春夫とお千代さんが夫婦の感じには見えないし。
谷崎と春夫は、お千代さんを巡って7~8年程はぎくしゃくした関係が続いていた。
 
しかし初々しい二人。
目の表情で互いにだけしか分からない恋の楽しみ。
この段階で不倫関係であったならば、否応無く燃え上がることだろうに。
 恋は禁断である方が蜜の芳醇さも格別というもの!
しかし昨今では不倫ゲスなどと言われるので滅多なことは言えないご時世。
 
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