愛に恋

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歴史―二本松藩士の維新 榊山 潤

本書は古書市で買ったと思うのだが、先ずタイトルに惹かれた。幕末、会津戦争や長岡城攻防戦で有名な北越戦争などはよく知っているが、二本松の落城に関しては殆ど纏まった本などなかったので、作者は無名でもこれは買うしかない1冊だった。読後、解説で初めて分かったが、第一部、二部からなるこの本の発行は昭和13年から14年とかなり古いもので、第三部として明治15年の福島事件を扱ったものがあるらしい。自由民権派河野広中と、それを弾圧する三島通庸の話で、ぜひにも読んでみたいが、これに巡り合う可能性はかなり低そうだ。さて、冒頭すっかり忘れていたが、慶応4年4月20日未明の奥羽鎮撫参謀世良修蔵が福島北町の妓楼で暗殺されるところから始まる。仙台藩士6名と福島藩士3名らによって捕縛され斬首となる。この頃、上野の彰義隊も壊滅して東北各藩は奥羽越列藩同盟を組織して、迫りくる官軍と対峙しようとしていたが、何分、自藩大事ということで纏まりに欠く状態で、官軍は別個に藩を撃破、負け戦になった激動の時代に名もない青年が、眼に見えない歴史の力に翻弄される姿を敗者の側に立ち描いた新潮賞受賞の力作となっている。歴史は勝者によって書き換えられるというが、著者は敗者としての論理を実に深読みして、読み手を納得させる名作ではないかと思う。