愛に恋

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「ムーンライト・セレナーデ」 世界における、僕の最も嫌いな顔が此所にある

室生君、君のあらゆる生活は、君自身に対する嫌忌と克服によって一貫している。何よりも君は、君自身の容貌が嫌いなのだ。君は自分の顔を鏡に映して、絶えず自分で腹を立てている。思うにその鏡の中には、君が理想とする要望、それは君の抒情詩や小説によって聯想される如き、優にやさしい美少年の顔であろう。と丁度正反対のものが写っている。君の如き極端な自己嫌悪者は、君の知る世界に於いては殆ど居ない。どんなに君が、君自身の容貌を悪んでいるかは、かつて君が鏡を指して「世界における、僕の最も嫌いな顔が此所にある」と言ったほどに有名である。だが君の嫌いなものは、あえてただ君自身の容貌ばかりでないだろう。その容貌に現れている所の、君の性情そのものが、根本的に君は、大嫌いなのだと萩原朔太郎は書いている。そう、確かに室生犀星は醜男だった。言っちゃ悪いけど。「ムーンライト・セレナーデ」のお時間です。私は犀星よりはましな顔をしていると思う。君のそう思うだろ。おやすみなさい、また明日。