愛に恋

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「ムーンライト・セレナーデ」 室生犀星の親友、萩原朔太郎の弁

室生君、昔はずいぶん乱暴な人間だった。いや、乱暴なんて言う語は適当ではない。君は「自然のまま」を行為する本能の赤児だった。君のあらゆる行為と生活は、人間社会の常識を超越していた。君は野の獣のように、何物の理性にも捉われないで、真の本能が命ずるままに、純真の感情生活を送っていた。すべての野獣の本能がそうである如く、君は火のように嫉妬深かった。あらゆる異性の接触に対して、君は看守の如く眼を見張って、独りで苛立たしく嫉妬していた。君は道で出逢った若い女が、知己の青年にお辞儀をしたというだけでも、世界が転覆するほどの嫉妬を感じ、百の慷慨悲憤をした。当時の酒飲仲間だった歌人河野慎吾は、幼い婚約者の妻をもっているというだけで、君の苛立たしき嫉妬を買い、幾度か本郷の街路に組み伏せられ、理由なく下駄で頭を叩き割られた。あの穏やかそうな顔をした室生犀星の親友、萩原朔太郎の弁です。「ムーンライト・セレナーデ」のお時間です。最近はついつい世界陸上を1時過ぎまで見てしまう。おやすみなさい、また明日。