愛に恋

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教育総監 秋山好古大将

内田百閒は書いている。

「私が陸軍教授に任官して陸軍士官学校の教官をしてゐた当時、教育総監秋山好古大将が特命検閲使として学校にやって来た。教育総監部と云ふのは陸軍の文部省と云った様な所だが、その長官の教育総監は大将で参謀総長と並び、文部大臣よりは偉かったかも知れない。その教育総監が学校に来ると云ふので、前前から大騒ぎであったが、当日我我教官は出迎へ、見送りの外、講堂に集まってその訓示を聞いた。だから秋山大将の顔はよく見て、覚えてゐる。訓示は何を云ったか記憶にないが、元来何も意味のある様な事を云ったわけではないだろう。ただその終わりに、皆の者は引き取っていい。ただ「校長二人ハ残レ」と云った。二人の一人は士官学校の校長の中将で、もう一人は隣の陸軍幼年学校の校長の少将である。中将と少将、いづれも閣下でふだんは大変威張ってゐる。その二人ハ残レと云った御威光には驚き入った。」

秋山好古大将というのは有名な日本海海戦の時、連合艦隊出動時に秋山真之中佐が大本営へ打電した文面「敵艦見ユトノ警報ニ接シ、聯合艦隊ハ直ニ出動、之ヲ撃滅セントス、本日天気晴朗ナレドモ波高シ」とモールス信号った真之中佐の兄です。

好古大将は日露戦争で騎兵旅団を率い、ナポレオンをも破った世界最強のコサック騎兵を相手に好戦し、日本騎兵の父と呼ばれました。