愛に恋

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ヤギ髭お爺さんと新太平記

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幸か不幸か、私はここ一年位でカフェ友という人を約10人ほど作ってしまった。

全員、何かのきっかけで私の方から声をかけたもので、何れも年上のお爺さんとお婆さんだが、例外的に年下の男女が各1名いる。

本来はそれぞれ話相手もいない、おひとり様の客なのだが、今では何だか私を中心に顔見知りになってしまい、軽く会釈などする仲に。

自分で言うのも何だが、私はかなり人懐っこい。

6人ほどいる若い店員とも気さくにお話している。

そんな中にあって、尤も最近知り合いになったのが、齢80歳ぐらいのご老体。

いろいろと病気持ちで、常にしんどそうだ。

12時半ころにカフェに来ると知って、どういうわけか私を待つような塩梅になってしまった。

実は前々回会った時に、いつも歯医者で貰っている試供品シミテクトとは別の、入れ歯専用の歯磨き粉をお爺さんに上げると、前回会った時に、その返礼として山岡荘八の『新太平記』第一巻を持ってきた。

太平記』と違い、これは後醍醐天皇を中心に楠木正成新田義貞らを中心とした南朝方の話だ。

これは全五巻、約2000頁以上もある大作で、まあ、嬉しいと言えば嬉しいが、お爺さんには言ってないが、現在、私の積読本は307冊。

そして今日、少し遅れて行ったらお爺さん、ぽつねんとした顔で私を待っていた。

何度も何度も「ああ、会えて良かった、会えて良かった」と繰り返す。

「会えれば話もできるからね」と言うのを聞いて、私はなんだか複雑の気持ちになる。

今後、若し会えなかったら寂しい思いでバスで帰るのかと思うと遣る瀬無い。

私としては会わなければいけないという責任感が出てくる。

奥さんと二人暮らし。

家では話らしい話もないので私を当てにしているのだろう。

併し、耳もかなり遠く、なかなか拝聴するのも難しい。

だが、やはり会うと何事も「はい、はい」と聞いている私。

そんな刹那、思い出したようにカバンから『新太平記』の第二巻・三巻を取り出し私に渡すではないか。

今度また四巻・五巻を持ってくるからと。

私は恭しく押し頂いた。

むんん、とにかくありがたく頂いたわけだから、いずれは読まないといけない。

これ以上もうお年寄りと知り合いになるのはやめよう。